超ロングセラー「陰陽師シリーズ」の第九作目・(文庫で)最新作である。初出が1988年なので、もう二十二年も読み続けている、偉大なるマンネリ・シリーズなのだ。悪口ではない。何十年も続く定番TV番組「水戸黄門」でも、世界最長の映画シリーズ「男はつらいよ」の寅さんでも、はたまた日本が誇る伝統芸能の歌舞伎でも、定型的なパターン「型」が必ずあり、長寿シリーズは毎回常にその形式を踏襲しているのだ。否、ファンのためには踏襲しなければいけないのだ。
博雅の枕元に夜な夜な何処からともなく現れる美しい女性。哀しい眼で見つめ、何も語らずに残り香とともに消える。博雅に相談された清明は、博雅が帝から賜ったという唐の琵琶に興味を惹かれ・・・。『月琴姫』、その他、全九編の短編集。
必ず陰陽師・安倍清明の自宅の庭にある、四季折々の草花の描写から入り、その風流な庭を眺めながら源博雅とゆるりと酒を飲みかわす。そしてどちらからともなく会話が始まり、平安京の怪異な話が語られる。やがてその怪異を確かめたり、解決するため二人は行動し、無事に解決すると、また清明の自宅に戻り、また酒を酌み交わしながらの後日談義で終わるのだ。
妖怪、物の怪、鬼達が毎回登場するが、話の基本は人情話。人の「業(ごう)」や「性(さが)」から生じる怪異を、清明はその術で納めてしまう。最後は見事に解決すると分かっていても、平安時代の風俗しきたりを交えながらの展開で、最後まで飽きさせない。風雅な貴族の生活の中に潜む、闇のように深い人の心。その深遠の淵から覗く欲望が、怪異を呼び起こし、事件となる。鬼まで聞き惚れる笛の名手・博雅はその優雅な音色で、地獄までその名が伝わる術使い・清明はその術で、荒ぶる怪異を静めるのだ。新作が出たら必ず手にとってしまう、不思議な魔力のある物語なのであった。