とってもハートウォーミングで、とっても美味しそうなお話でした。最近人気の小川糸の出世作。映画もそろそろ上映される頃です。
同棲していた恋人に、全財産を盗られた倫子。そのショックで声まで失い、失意のなかで故郷の山里に戻った。そこで倫子は、小さな小さな食堂「かたつむり」を始める。そこは、一日一組のお客さんだけのために、真心を込めて創る、手作りの料理が自慢だった。

いや~いいお話でした。声を出せなくなったけど、祖母に料理を仕込まれ、アルバイト先で料理の腕を磨いた倫子。なかなか失恋の痛手から抜け出せません。しかし山に囲まれた辺鄙な田舎町で、だからこそ豊富な食材に恵まれ、おそろしく手間暇をかければ、贅沢な料理を作れる環境がありました。そこで料理の才能を開花させ、一日一組のお客しか受けない食堂を始めたのです。そこで出されるオーガニックなフランス料理に中華料理、日本料理の数々。豚の解体から腸詰めまでこなし、ウェディングケーキまで作ってしまいます。
やはり非現実的なお話で、ファンタジーといえばファンタジーな設定です。しかしストーリーは苦く哀しく、やはり大人のための御伽噺だと私は思います。世間では文章が下手だの駄作だの読む価値が無いだの、罵詈雑言を浴びせかけている人たちがいたり、お薦めの名作だと絶賛したりする人もいて、賛否両論の作品であることは確かです。ただ作家がどんな素性かで、作品の価値が変わる訳でもありませので、そんなレベルで作品を批評してほしくはありません。せっかく読む小説なら、楽しまなくていけませんね。
ま~それにしても出てくる料理の美味しそうなこと。どれもこれも、数日前から仕込みを始め、手間暇と愛情を込め、丹精込めた料理の数々が登場します。料理が第二の主人公のようです。
しかし、やはり人々に料理を振る舞うことを、無上の喜びと感じる主人公はいいキャラです。食べ物に対する真摯な態度は、とても初々しく感じました。うじうじといつまでも昔にこだわる性格はナイーブですが、どうしても応援したくなります。最後は暖かな人々に囲まれて、何とか立ち直りそうな気配で終わり、清々しい読後感の残るファンタジーでした。料理好きの女性なら、ま~必読の本ですね。