言ってみれば、医療問題告発小説なのだ。海堂尊の持論『死因不明社会』を小説版にしたものと言ってもよい。『チーム・バチスタの栄光』『ナイチンゲールの沈黙』『ジェネラル・ルージュの凱旋』と、宝島社から出ている一連の田口・白鳥シリーズの話題の最新作。
万年講師の田口は、厚生労働省主催の医療事故調査委員会に、無理やり出席させられた。しかし、日本の権力の中心地で繰り広げられていた議論は、被害者を置き去りにした、官僚対医療と司法のバトルだった。
今までの田口・白鳥シリーズは、とりあえず医学ミステリーの形式になっており、医療問題は小説の背景として語られていただけだった。しかしこの『イノセント・ゲリラの祝祭』では、正面から「死因不明社会」の告発と、「Ai(死体画像診断)」の導入という海堂尊の持論を展開している。このシリーズ全作を読んでいる読者にしてみたら、「とうとう」と言うか「やっと」と言うか、ここまで辿り着いたという感じがする。小説の形式を採ってはいるが、ほとんど官僚、行政、司法や法医学会に対する挑戦状なのである。読者はエンターテーメントとしての小説を期待してはいけないのだ。
いきなりこんな告発本を出版しても潰されるだけだろうが、最初はミステリーでデビューし、ベストセラー作家になり、社会的地位を確実に上げ、著作物が絶対に無視されない状況になってから、本命の告発本を出す。もし最初から計算していたとしたら、とんでもない戦略家だ。ま~戦略だけでベストセラーが出せるくらいなら、だれも苦労はしないのだろうが。とんでもない才能の持ち主であることは確かだ。
この小説で展開される海堂尊の持論「Ai(死体画像診断)」の導入は、文庫本の解説者である前「異常死死因究明制度の確立を目指す議員連盟」事務局次長(さすが長い名前ですな)までを動かす事態となってるようだ。昨年は、このAi診断がらみで東大名誉教授から名誉毀損で訴えられており、なかなか世間を騒がせている。しかしここまで官僚を無能呼ばわりし、Ai導入に反対する勢力を片っ端から告発するような本を出版したら、確かに反発されるわな~。
やり方に多少問題があるかもしれないが、ここまで過激に運動しないと、国家という巨大システムは絶対に動かないのは、確かにそうなのだろう。小説の中でキーマンである彦根が、法律家に向かって言い放つ言葉。「国家は滅びることはあっても、医療は滅びない」「国体の基礎の法律の歴史はたかだか百五十年、しかし医学は二千年以上の国境を越えた歴史があるのだ。」という台詞は凄い。医師の矜持を示したものだろうが、現役医師でないと決して言えない重みがある。
ここまでやりすぎるくらいやると、作者の海堂尊には様々な圧力がかかってくるだろう。海堂尊のホームページには、小説の中で展開していた議論が、作者の主張としてほとんどそのまま載っていた。作者もこの小説はノンフィクションだといってはばからない。ベストセラー作家としてここまで有名になった海堂尊が、私利私欲で動くような人物ではないことは明白であり、その主義主張も傾聴に値するものだと思う。現場の医師たちの代弁者だという海堂尊の言葉を信じ、一読者としこの告発本に賛辞を送りたいと思う。