巷でちょいと評判の「お料理時代劇」なのだそうだ。で、さらっと読んでみた。さて、これが粋で良かった。読者の大半が女性のようだが、そりゃそうだと納得した。

大阪で生まれた澪(みお)は、水害で両親を亡くし、天涯孤独の身となった。江戸は神田の蕎麦屋「つる屋」で働き始めると、天性の味覚と負けん気で、「つる屋」を上方料理を出す評判の料理屋にまで押し上げた。しかし老舗の料理屋の妨害で・・・。

今年に入り「お料理もの」が、小川糸の「食堂かたつむり」とこの「みをつくし料理帖」ですでに2冊目。両作とも料理のレシピが詳しく載っており、材料が入手できれば造れるかもしれない、という気にさせるお料理好きにはたまらない小説なのだ。たとえ我が輩のように、料理は食べるだけ、という輩にも十分堪能できる。もしかすると、この勢いで「お料理もの」という一大ジャンルができたりして・・・。
そういえば、マンガの世界ではずいぶん昔から料理マンガがあり、有数のジャンルを形成していた。「おいしんぼう」のように大ロングセラーもある。なのに小説界ではあまりそんな話は聞かない。我が輩が知らないだけかな~。
それが最近は、朝日新聞の土曜版beの連載エッセイが、女流作家(死語かな?)による連作料理ものになってたな~。近年女流作家の興隆(これは明らか)と、女性読者の増加(こっちは単なる勘)で、お料理ものが流行る下地ができていたはず。そこに面白いお料理ものが登場したので、一気に売れたのだろう、と我が輩は睨んでいるのだ。
「食堂かたつむり」は、一日一組の客しかとらずに、無茶苦茶手の込んだ世界の料理を出す食堂だった。ま~これは現代のファンタジーとしか思えない設定だった。
それに対してこの「みをつくし料理帖」は、時代を江戸とし、当時からあったであろう料理を、当時の食材と調理器具で造るという面白い趣向だ。単なる時代小説では、既に膨大な作品があり、埋もれるだけなので、「江戸時代の料理」に目を付けたのだろう。慧眼である。
もちろん中身は料理だけではない。主人公の澪は、波瀾万丈のストーリーに投げ込まれ、読者はハラハラドキドキと心配させられることになる。なんか展開に無理があるような気もするので、もうちょっと、ほのぼの感が欲しいところだが、どうだろう。
つまり物語のタッチとしては、同じ江戸が舞台の連作短編だと、畠中恵の人気シリーズ「しゃばけ」よりか、宮部みゆきの昔の「霊験お初捕物控」に近い。もっともまだ一巻しか読んでいないのだが、二巻目もさらに風雲急を告げる展開になるようだ。
この手の連作短編の常套手段としては、主人公に謎の過去があり、少しづつその謎が明らかになると、やがてその小説全体の世界観が立ち上がる、というのがある。北村薫の直木賞作品「ベッキーさんシリーズ」が有名だ。
「しゃばけシリーズ」も最初の頃はそんな感じだった。もっとも大抵は人気が出ると、謎がすべて出尽くした後でも、安定した世界観の中で、マンネリと言われながら延々と続編が出てくるもんだ。なぜか時代劇の捕物帳にはその手のシリーズが多い。
話がかなり横道に逸れたが、この「みをつくし料理帖」も人気が出たので、今後は長期連載パターンになっていくはず。つまり、ジェットコースター的展開は次第に落ち着き、主要人物が固まり、後はそれこそ料理を巡る人情時代劇になるのだろう。というか期待したい。見た目が艶やかなパーティー料理ではなく、奥ゆかしいが味わい深い和食の方が、飽きがこないので・・・了。