2008年のベストセラー新書である。100万部近く売れたそうだ。なので、今までなかなか手が出なかった。
まだ売れる前の、話題になりかけの本を見つけて読むのは好きなのだが、どうもベストセラー本だと、今更感があって読む気になれない。単なる天の邪鬼なだけなのだが・・・。
今頃になってやっと「悩む力」を読んでみたところ、とてもベストセラー本とは思えない、意外な内容だった。意外というと語弊ががあるが、要するに「まっとうな本」なのだ。読む前は、著名な政治学者が書いた「生き方」の本ということで、新書ブームの尻馬に乗った安直な企画本のイメージがあったのだが、とんでもない。現代人が、生きる上で避けられない、「どう生きるべきか」、という難題に、真摯に取り組んだ本なのである。
ユニークなのは、夏目漱石とマックス・ウェーバーの著作物を、比較しながら全編に渡って引用している点だ。この二人は、100年も前から、資本主義経済における現代人の苦悩を直視し、一生の間立ち向かってきたそうだ。内容は次のようになっている。
①「私」とは何者か②世の中すべて「金」なのか③「知ってるつもり」じゃないか④「青春」は美しいか⑤「信じる者」は救われるか⑥何のために「働く」のか⑦「変わらぬ愛」はあるか⑧なぜ死んではいけないか⑨老いて「最強」たれ
簡単に言ってしまうと、これらの素朴な「悩み」というか「疑問」について、夏目漱石とマックス・ウェーバーの思想を頼りに、著者がどのように考えているを書いている本だ。なので、個人的悩みに立ち向かうノウハウを、この本に期待してはいけない。
20代の若者なら誰でも通り抜けるであろう、これらの根源的な悩みに、まじめに答えようとしているのは確か。我輩も学生時代に、ここで書かれているような疑問を持ち、かなり考えてきたつもりだ。なので、この本を読んでいるときの感想は、『懐かしい』なのだ。ま~100年も前から、現代人特有の悩みは考えられてきているので、誰もが同じようなことを考えてきたのだろう。
つまり、近代になり人々が宗教に対して絶対的価値観を持てなくなったため、何を信じてよいかが分からなくなった。このため現代人は自分自身の行き方に、正面から向き合うしかなくなり、苦悩が深刻化してきた。ま~このあたりは、それこそ誰でも考えていることだが、ではどうするか?個人があまりにも「自由」を手に入れてしまったが故の、言わば贅沢な悩み。その回答が、自分自身を信じるしかない、というのではなんだかな~。
もっともそんな根源的な「悩み」に対して、安直な解答があるわけがないことは知っている。知っているのだが、もうちょっと、次元の違う考えが聞きたかった。分子生物学やロボット工学、情報理論などは着実に進化を遂げているが、哲学の分野は、千年以上前のアリストテレスの時代から進歩がないな~。
とにかくこの本は、現代人ならだれでも抱くであろう疑問や悩みを、漱石とウェーバーを引き合いにして書いた、著者の自伝的エッセーなのだ。ウ~ム、なぜこの本がこれほど売れたのかに悩みそうだ・・・。