村山由佳の直木賞受賞作である。親子孫、血の繋がる六人が各々語る家族の物語なのだ。

何だろう。腹違いの兄弟姉妹がいる複雑な家庭における、不倫や浮気のオンパレード。人気女性作家の恋愛小説にありがちな、いつものパターンが、六つの短編の中で最初の四つを占める。残りは、いじめと最後が悲惨な戦争もので終わる、という構成。
実は最初の五つの短編まで読んでいて、何でこんな重苦しい小説を読まなきゃならないのだろうと正直感じていた。ところが、最後の祖父・重之が語る戦争体験談だけは、これも悲惨な話なのだが、いたく感動した。
結局、村山はこの最後の話を書くために、始めの五つの短編を書いたのではないだろうか。頑固で偏屈で暴力的な重之。家族はみな、家庭の大黒柱である重之の、その支配下で生活し育った。その巨大な影響力が、家族全員に及び、各々の生活に大きな傷跡を残す。しかし重之の理不尽な行動の源は、最後に明かされ、それまで読んできた物語の、深い意味に気づく。結局最後まで読まないと、この小説の価値は理解できない。
作者による後書きには、この物語は「自由」を渇望する人を描きたかった、とある。皮肉なもんだ。ついこの間読んだ「日本辺境論」では、現代人はあまりに自由になりすぎた故に、確固たる価値観をもてず苦しんでいる、とあった。人間は、自由が無いと自由を渇望し、自由があると不安になるようだ。困ったもんだ。
しかしそれにしても、ここには様々な「愛」の形が登場する。夫婦愛、親子愛、兄弟愛、友情、不倫、浮気、離婚、禁断の恋。これでもか、というくらい強烈に登場する。にもかかわらず、どれも成就しない。恋愛小説という分野では、ハッピーエンドでなく苦い結末が望まれているのだろうか・・・。暗く重いが、深い感動が残る直木賞作品であった。