直木賞を受賞した桜庭一樹・渾身の力作。この作品で、桜庭一樹は独自の深く暗く陰媚な世界を描き切り、注目を浴びた話題作なのだ。
震災で孤児となった九歳の「花」を、まだ独身の若者であった淳悟が、なぜか引き取り、養父となる。その花の結婚式から、物語は幕を開ける。世捨て人のような隠遁生活をおくる淳悟と、禁断の性愛に生きる花。24歳の花は9歳の花へと、物語は次第に遡っていき、愛に飢えた二人の過去を、暗く静かに圧倒的な迫力で解き明かしていく・・・。
う~む、物語の内容は背徳的で後味も最悪で、決して読んで楽しめる話ではない。しかし作者の筆力の高さは認めざるおえないほど高い。暗く冷たい最北の海の、流氷の軋む音や、潮の香りが臭うほどの文章力なのだ。なので評価が中途半端な「★★★」と、なってしまったのだが、ま~我が輩の好みの話ではないのは確かだ。
必然性が無いわけではないのだが、ひたすら粘着質な近親相姦・幼児性癖の性愛描写が多く、不快にさせる。ネット上の評判も好き嫌いの差が大きいようで、一般的には賛否両論あり、といったところか。
にしても、この小説の構成は実に面白い。冒頭の結婚式のシーンから、次第に時間を遡り、最後の章で幼い二人の出会いのシーンで終わるのだが、純粋に時間を遡る小説は非常に珍しい。最初の段階で過去に事件があったことが暗示され、悲惨な事件が語られ、どうして事件が生じたかが明かされていく。そういう意味ではミステリィ仕立てなのだが、最後の章になるまで二人の生い立ちは明かされない。それどころか、最後になってもすべての謎が解き明かされるわけでもなく、深い余韻を残すのだ。
いや~桜庭一樹は不思議な作家だ。「ブルースカイ」、「GOSICK」や「少女七竈と七人の可愛そうな大人」など、我が輩も桜庭一樹の本はいくつか読んではいるが、ライトノベル系というか「ゴシロリ系」作家のイメージが強かった。「少女七竈と七人の可愛そうな大人」もこの「私の男」と同じ北国を舞台に、同質の臭いを持つ話だが、この作品あたりから変貌したようだ。ま~それにしてもここまで強烈な話ではなかったし、表現力や構成力もここまでのレベルにはなかったな。
しかしこのような異様な「事態」の背景として、「欠損家庭」で育ち、徹底的に孤独だった二人の生い立ちを説明し、二人とも「家族」を持ちたかっただけ、という解釈を読者にさせることは、どうなんだろう。もちろん、このような直接的ではないにしても、背景説明がなかったら、読んでる方は物語に説得力を感じず、単なるグロテスクな話になってしまっただろうが・・・。
話題作であることは確かだが、とにかく読者を選ぶ小説なので、覚悟して読むべし。