素晴らしい小説だ。爽やかで面白く、ミステリアスで感動的でさえある。2008年本屋大賞2位、大藪春彦賞受賞のスポーツ青春サスペンス小説なのだ。
将来、陸上競技のオリンピック選手候補と有望視されていた白石誓は、18歳であっさり自転車競技に転向してしまった。ロードレースのプロ選手となった白石は、エースのために自分を犠牲にするアシスト役が気に入っていた。めきめきと実力を付けた白石だが、ヨーロッパの大会で大事故に遭遇し、ショックを受ける。しかしその事故の陰に潜む、罠に気づき・・・。
いや~あまりに面白いので、一気に読んでしまった。ロードレースという日本では馴染みの少ない自転車競技を題材に、最近流行のスポーツ小説、爽やか青春小説、ミステリィ小説を融合させ、かつ最後に感動させる小説にしたのだから凄い。傑作だ。
この小説を読むまで、このロードレースという自転車競技が、団体競技であることさえ知らなかった。この競技は、一人のエースを勝たせるため、多数のアシスト役が自分を犠牲にして走る、そんなスポーツなのだそうだ。逆にエースは、多数のアシスト役を使い捨て、優勝をしなければならない役柄なのだ。団体競技なら、どんなスポーツでも、個人の役割は決められており、それぞれが与えられた役割をきちんと全うしないと勝てないものだ。しかしこのロードレースは、優勝するのはあくまで個人であり、アシスト役はエースの引き立て役でしかなく、名前すら残らない。そんな極端な自己犠牲の役割を与えられるスポーツも珍しいが、だからこそ、この小説が成り立っているのだと言える。
ま~スポーツ小説を読む醍醐味は、その競技の臨場感を味わえることにある。この「サクリファイス」は、その点も素晴らしく上手く、選手になった気分で試合のスリルや高揚感を味わえる。競技者でないと知らないはずの、駆け引きやノウハウも詰め込まれ、本当に戦っているような気分にまでさせられる。が、それにしても著者が、このロードレースをリアルに観戦したことも無ければ、ロードバイクに乗ったこともないというのにはビックリした。選手にインタビューはしただろうが、ロードバイクに乗ったこともないのにここまでリアルっぽく書けるのだから・・・。作家の想像力というものはたいしたもんですな。
ミステリィ小説ではないが、おそらく誰が読んでも面白いこと請け合いなので、ぜひ読んでもらいたい。お薦めの逸品なのだ。