「ランナー」というタイトルで「あさのあつこ」が書いたのだから、流行のスポーツ小説だと、誰でも思うだろう。しかし、長距離選手が主人公であることは間違いないのだが、フツーの爽やか青春小説を期待すると、とんでもない。さすがベテランあさのあつこ、見事に裏切ってくれる。
高校1年生の碧李(あおい)は、幼い妹・杏樹を守るという理由で、陸上部を辞める。複雑な家庭の中で一人苦悩を抱えながら、杏樹を気遣う碧李。監督や友人の久遠、マネージャーの杏子の励ましもあり、碧李は再び走り始める・・・。
あさのワールド全開の作品なのだ。長距離走がテーマのスポーツ小説などではない。大ロングセラー「バッテリー」の原田巧。やはりベストセラーの「The MANZAIシリーズ」瀬田歩。あさのあつこ、お得意のヤングアダルト(YA)小説の主人公は、みな複雑な家庭環境にいる、内省的な男の子ばかりだ。この「ランナー」の碧李も、寡黙に忍耐強く黙々と行動するタイプだ。監督からは天性の長距離ランナーだと目をかけられるが、家庭を守るためにという理由で、部活を辞めてしまうのだが、本当にそれが理由なのかと自問自答し、苦しむ。そんなお話なのだ。

長距離走など陸上競技は、同じスポーツでも、球技などの対戦相手がいるスポーツとは大きく性格が異なる。戦う相手は自分の記録とであり、常に自分と向き合うことになるのだ。球技だと、試合結果は当然相手次第で左右されるので、常に相手を意識し、対抗意識を燃やすことになる。
ということは、アスリートは、その競技に合った体格になるだけでなく、性格までスポーツによって形成されるのだろうか・・・。
「ランナー」の登場人物は、過剰なほどの言葉で内省するが、人に向かってその心情を吐露はしない。ひたすら胸に秘めてしまうのだ。次第に崩壊していく家庭、まだ高校生なのに健気に持ちこたえようとする碧李。愛情を、重荷としか思えなくなる環境でも、真摯に立ち向かおうとする碧李の姿は感動的だ。重いドラマだが、読み応えのある作品であった。