大藪春彦賞を受賞した傑作ミステリー「TENGU」の柴田哲孝が、お得意のUMA(謎の未確認動物)をテーマにした、SFエンターテイメントなのだ。
かつてストーカーに監禁された経験のある踊り子・志摩子は、またも男からつきまとわれていた。嵐の晩に、遺伝子工学の研究所から研究員を殺害して脱走した、謎の生物「ダンサー」は、志摩子を狙っていた。ルポライターの有賀は、事件の背景に黒幕がいることに気がつき・・・。
イッキ読みしたくなる面白さを持つ、サイエンス・ミステリー。ま~ミステリーというか、冒険小説というか、SFというか、とにかくエンターテイメントなのである。
野生味溢れ情け深い主人公、父親と息子の確執と心情、飼い犬ジャックとの厚い友情、遺伝子工学の最新知識、読みごたえ充分である。スリラーのようなイントロ、ホラーのような残虐な事件、スリリングな展開と大団円。エンターテイメントの王道を突き進み、読者を飽きさせない筆力なのだ。この作者の「TENGU」とか「KAPPA」を、まだ読んでいない人にはお勧めできる。
しかしですね、既に「TENGU」を読んでしまった読者にとっては、どうだろう。あまりにこの「TENGU」のインパクトが大きかったので、どうしても二番煎じの印象が拭えないのだ。ま~読者というものはワガママなものだ。あれだけの傑作を読んでしまうと、次作にはさらに面白いものを、と期待してしまう。作者もその期待に応えようと、必勝パターンの構成に、最新遺伝子工学で武装し、自信満々で上梓したのだろう。この小説は、作者の思惑どおりの仕上がりであり、充分楽しめるはずだ。読者の期待値が、とんでもないハイレベルでない限りにおいてはなのだが・・・。