「2008年ベスト新書」に選ばれた、話題の新書。まだ若い女性ルポライターが著者である。ちなみに2位が「強欲資本主義の崩壊」だった。奇しくも、2作品ともアメリカの実体を暴き、話題となった本である。
良い意味でも悪い意味でも、世界最先端の資本主義を標榜し、自由競争を好むアメリカ。その明らかに行き過ぎた自由化の果てにあるのが、この「貧困大陸」なのだ。内容を見出しで見ると
・貧困が生み出す肥満社会
・民営化による国内難民と自由化による経済難民
・一度の病気で貧困層に転落する人々
・出口をふさがれる若者たち
・世界中のワーキングプアが支える「民営化された戦争」
といったところだ。

正直なところ、前半部分を読んでいる最中は、アメリカの恥部を描いただけのルポだと思っていた。この程度のルポなら、新聞で時々連載される米国特派員の特集でも読める。社会の表層を見ているだけのフツーの記事に思えたのだ。
しかし、読み進めるにつれ、この著者は米国の表層だけでなく、その背景や政府の思惑、大企業の戦略まで深堀し、いわゆる自由化の果てにある、過当競争社会の行方までえぐり出そうとしていることが理解できる。その筆の真摯な姿勢には、共感を覚えたのだ。
米国政府は、イラク戦争まで民営化し、外注化する。戦争請負会社は、貧困層を甘言で雇い、臨時の派遣社員として戦地に送る。そこで命を使い捨てにし、戦争を儲かるビジネスに変換するのだ。
政府はこの戦争の外注化により、戦費削減と貧困層対策の一挙両得を狙っているという。吐き気を覚える米国の政策だ。
高額医療費問題もここまで酷いとは知らなかった。虫垂炎の手術だけで数百万円を請求され、自己破産してしまうサラリーマンもいるそうだ。今年3月、オバマ大統領が政治生命を懸け、成立に執念をかけた、医療保険改革法案が成立した。これで金がなければ病気にもなれない異常な社会も、少しは改善されるのだろう。
ま~とにかく、米国のこのような異様な社会状況は、行き過ぎた競争社会の結末なのだ。日本はかなり以前、社会主義国家より平等な社会だと言われたこともあった。これはこれでイビツな状況だったが、異様な格差社会よりはましだったかもしれない。
強欲な資本主義社会は、儲かるなら何をやってもよいという風潮を生み、金が金を生むマネーゲームに参加できる金持ちだけを肥えさせ、やがて中流階級は消滅し、社会は金持ちか貧困層に二分していく。弱肉強食の競争社会なら当然の帰結なのだ。
熱狂的に受け入れられた「小泉改革」の果てにあるのは、「格差社会」だったのだろうか。自由化・民営化・能力主義に社会は移行しても、自分だけは勝者になるはずだと、だれもが無邪気に信じていた結果がこれでは救われない。共産主義への幻想が消滅し、唯一残った資本主義の行く末が、米国の現状なのか。自由の国の象徴がこんな惨状では、いったいどこへ、日本は目指すべきなのだろうか?
今日は参議院選挙。「良識の府」であるべき参議院。民主主義という、人類が数千年をかけて作り上げたシステムだが、いまだにこれ以上の有効な政治システムを生み出せていない以上、活用すべきだろう。直接選挙による二院制という、世界的にも希有な制度なのだから、日本国民の良識を信じ、これからの日本の将来を、この選挙に託すべきだ。
他国の現状を正しく認識し、他山の石とするため、この良書は現代日本人の必読書とすべきだ。