大好きな作家による、大好きな青春小説の、大傑作なのだ。サッカーファンなら、絶対読んで欲しいお話である。
川端裕人は、宇宙に憑かれた大人の夢と冒険を描いた「夏のロケット」でデビュー。ヘッジファンドを旗揚げした3人の若者のスリリングなマネーゲーム「リスクテイカー」。音楽と冒険を広大なスケールで描くスペクタクル「はじまりの歌をさがす旅」などなど・・・。読んだ本は傑作ばかり、なのに売れないな~。不思議だ。
失業中の元Jリーガー花島は、偶然公園でサッカーの天才少年の三つ子を見かけた。少年たちに誘われ、サッカーのコーチとなった花島は、日本一の小学生サッカーチームを目指すことになった。
サッカーが題材の小説は、野沢 尚の連作「龍時」01-02,02-03,03-04」、村上龍「悪魔のパス天使のゴール」と読んできた。どれも非常に面白く、サッカーというスポーツは、小説でも実に楽しいことは実証済みなのだ。しかし同じサッカー小説でも、スペインに渡った「龍時」は、その実力から単身でのし上がっていく成長物語タイプ。「悪魔・・・」の夜羽冬次は中田英寿をモデルに、最初から天才プレイヤーで、村上龍らしく国際ドーピング疑惑を絡め、サスペンスフルに仕上げていた。
この「銀河のワールドカップ」は、小学生のチームの活躍が目玉だが、サッカーが団体競技であることを、改めて理解させてくれるあくまでサッカーが主役のお話なのだ。つまり、登場人物たちがみな個性豊かなキャラばかりなのだが、その個性に合ったポジショニングや、対戦相手や状況による戦術があることを教えてくれる。
まだ体が小さいが、すばしっこく足技なら世界一流プレイヤー並の子供たちが、花島の指導により伸び伸びとプレイしていく様は実に楽しい。最初は、キャプテン翼と天才三つ子たちが核で集まり、足の速さなら負けない女の子、天才ドリブラーの子、長身キーパーなどを加えて、チームを作っていく。ま~ここらは「七人の侍」の前半部分と同じで、馴染みのパターン。予選リーグ、全国大会と勝ち上がるのもお約束。しかし、さすが川端はそんなミエミエの展開では終わらない。意外にも選手の故障で途中敗戦すると、とんでもない展開になっていく。サッカー少年なら夢のまた夢をかなえてくれるのだ。
どうしてもスポーツ小説は、主人公の個人の活躍になるので、団体競技本来の楽しさが伝えきれない場合が多い。しかしこの「銀河のワールドカップ」は、コーチを主役に据え、子供たちの個性を書き分けながら、団体競技としてのサッカーの戦術も伝え、団体競技ならではの面白さを教えてくれる。しかも数学者によるコンピューター・シミュレーションの理論まで取り入れ、無敵艦隊に勝つための戦略まで練るのだ。ラストはかなり無謀な試合になるのだが、そこに至るまでの地道な積み重ねがあるので、納得感は高い。
それこそ先月、日本チームが大活躍したワールドカップがあったばかりだが、この小説を先に読んでいたら、もっとサッカーの試合を見る目が変わったのに、と悔やむほどの小説だった。サッカーは個々の能力だけでは勝てず、チームとしての機能がやはり重要のなのだ。今回のフランスチームとスペインチームの結果の差で、これは証明されたようなものだろう。
小学生が主役でも、子供向けでない、大人向けのサッカー小説なのである。