またまた万城目学なのだ。今回は、マキメ初のエッセイ集である。新進作家の初のエッセイなので、出だしはほとんど思いつきレベルのネタを、無理矢理書いたようなところがあり、さすがにぎこちない。が、回を重ねるごとに、じわじわと味わいが出てくるスルメのような、エッセイ集なのである。
エッセイと言えば、浅田次郎の抱腹絶倒傑作エッセイ「勇気凛々ルリの色」がある。これはまだ浅田が売れていない頃から、週間文春で連載されていた、爆笑エッセイ集なのだが、これ以上面白いエッセイにいまだかつて出会ったことがない。そんなエッセイと比較するのも酷な話だが、筆者の体験記が元ネタというところは同じ。両者とも、たぐいまれな体験・経験をしてきているので、面白いエッセイが書けるのだ。
電気も水道もないモンゴルの最果ての土地で、サバイバルな生活をしてきたとか、世界中をバックパック1つで旅してきたとか、さすがマキメは好奇心の塊である。作家というものはこうでなくてはいけない。経験の累積値は、作品の肥やしになるはず。わずか2年間でも、工場での会計係というサラリーマン生活をしたことがなければ、説得力あるサラリーマン像の造形は困難だろう。もちろん奔放なる想像力は、作家としては最低限の能力だが、座学からの知識と想像力だけでは、やはり限界があるはずだ。例えファンタジーを書くにしても、魅力ある人物造形は必須だが、種々雑多な人たちとの交流経験もなかったら、たとえ無尽蔵ある想像力でも難しいだろう。
もっともこのエッセイでマキメは、猫アレルギーであることを告白しているのだが、「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」では、猫を主役に据えているのだ。猫が嫌いでも、猫に対する深い愛情を感じさせる小説は書けるようだ。ま~だからと言って、ゴキブリとの戦いを執拗に書いているマキメが、ゴキブリを主人公にした小説を書けるとも思えないのだが・・・。