ご存じ、2006年に「本屋大賞」を受賞した大ベストセラー。ほとんど母子家庭だった作者の、自叙伝的長編小説である。文庫になったので、さっそく読んでみることにした。

筑豊の寂れゆく炭坑町で、ボクとオカンはヤクザなオトンと別居し、二人だけで元気に住んでいた。ハチャメチャな少年時代も過ぎ、やがてボクは上京するが、いつまでたってもプータロー暮らし。オカンはボクのため一人田舎で働いていた。しかしオカンは、ガンと闘うため上京することになり、また一緒に暮らすことになったのだが・・・。

小説だが、作者「リリー・フランキー」の半生を、濃密な母子関係を軸に綴ったものだ。幼い頃から、長いプー時代を経て、やっと自活できるようになるまでを、細々としたエピソードを積み重ね、長い長い独白が続く。子供のためだけのことを想い、ひたすら自分を犠牲にしてきた母。母の愛情を素直に受け止め、甘える息子。やがて老いて病魔に侵された母親を呼び寄せ、励まし献身し最期を看取る。共感をよぶ感動的なお話なのだ。
冒頭から回想する形で語るので、お話全体がセピア色に染まり、懐かしい昭和時代が蘇る。「東京タワー」が、憧れの東京のシンボルなので、かなり古い頃の話かと思い読んでいたら、なんだボクより年下だった。ボクはリリーのように、幼少時代をあまり覚えていない。かつて通り過ぎたはずの、あの時代を。
ご近所の人々は、今よりはるかに緊密に触れ合い、口を挟み、みんな家族同様に過ごしていた、昭和という時代。死んでも誰も気がつかず、戸籍の中だけでいつまでも生き続ける亡霊が、沢山見つかる現代とは別世界。
リリーは、そんな昭和という時代を、いつまでも引きずり身にまとい、生きている。仲間を集め、みんなと暮らし、貧乏を分けあい、助け合い、ワイワイと過ごす。母親を頼り、いつまでも依存し、永遠に続くモラトリアム。そう、リリーはいつまでたっても、乳離れできない子供なのだ。読者がどんなに憧れても、手にすることができない生活。そんな生き方に、多数の読者が共感したのではないのだろうか・・・。