「神様のパズル」で、小松左京賞を受賞し、作家デビューした機本伸司の、いわゆるハードSFである。
2030年、地球に接近する彗星を探査していた無人探査機が、突然消息を絶った。探査機からの謎のメッセージに疑問を持った宇宙飛行士・香蓮は、彗星の中からニュートリノ信号が発信されていることを知る。香蓮たち6名のクルーは、日本初の有人月着陸計画を密かに変更しようと、夜な夜なカラオケバーで計画を企てるが・・・。
「メシアの処方箋」「僕たちの終末」と、小松左京ばりのSF傑作を出し続けている機本伸司が、いわゆるファーストコンタクトものを出した。ま~いままでにも、ありとあらゆるパターンの、ファーストコンタクトSFが書かれてきたが、この機本伸司は、かなりユニークなアイデアを繰り出したのだ。
地球外生命体との接触、ファーストコンタクトを題材にする場合、その生命体の形態とコミュニケーション方法が、最大の問題、というか興味の対象となる。過去に様々な作家が、様々なアイデアを競ってきた。しかし天文学や宇宙物理学が発達した現代においては、大半がファンタジーとなってしまった。 地球外文明と人類が接触できる可能性を示す「ドレイクの方程式」が、かなり昔から有名だ。そのパラメーターが7つある計算式の中で、最も推測が困難なパラメーターが、「星間通信を行うような文明の存続期間」だ。他のパラメータは、生命を宿す可能性のある惑星の数だとかなので、ある程度の精度で決められるのだが、文明の平均寿命などは想像もつかない。この文明の平均寿命が1万年以下だと、人類が生存している間にコンタクトできる可能性はかなり低いことになるという。
ま~人類が知り得ている物理学の法則に、他の生命体も縛られているならば、なのだが。だからSF作家は、人類にとって未知の物理学?まで使って、ファーストコンタクトを演出する。しかしこうなると、ファンタジーと区別が付かず、サイエンス・フィクションでは無くなってしまう。
このジレンマを、機本伸司は最先端の宇宙物理学の情報を駆使し、暗黒物質だのダークエネルギーを登場させ、ニュートリノ通信でコミュニケーションしようとまでする。
ま~このあたりの知識は我が輩は疎いので、この概念がどの程度優れているのかは不明だが、面白いと言えば面白いアイデアだ。 だが、SF小説としてみた場合、今までの機本伸司の小説の中では、最もレベルが低い。前半は、ほとんどが宇宙飛行士達の議論ばかりで、退屈きわまりない。日本の宇宙開発の事情を、機本伸司は良くわかっているようで、切実な議論の中身に文句はない。しかしお話としては酷い出来なのだ。
後半になって、やっと宇宙にでるのだが、意外に雑な展開だ。今までの機本伸司らしさも多少あるが、どうしても安直に思えた。
結局のところ、ファーストコンタクトのアイデアだけで、小説としての詰めが甘い。主人公のキャラも悪いわけではないが、魅力的でもない。せっかくの期待のハードSF作家なので、機本伸司の次作に期待したい。