ご存じ2008年本屋大賞受賞のベストセラー。山本周五郎も受賞している、伊坂幸太郎のエンターテイメント巨編である。

大衆に人気の首相が、地元の凱旋パレード中に、ラジコン・ヘリで爆殺された。首相暗殺犯人の濡れ衣を着せられた青年・青柳は、異様に暴力的な警察の、執拗な追っ手から必死に逃亡するが・・・。

「告白」の前年に、本屋大賞を受賞した、人気の伊坂幸太郎作品である。この物語は、とにかく「逃げまくる」話だ。結末は最初の方に書いてあり、本筋はその逃げっぷりを、テンポ良くスリリングに描いている。登場人物たちは、いつもの伊坂の作品のように、個性的というか変人ばかり。饒舌な会話もエスプリというか、皮肉な表現の連発。逃走劇は、予想通りに二転三転し、ラストまで突き進んでいくのだ。

最近の伊坂作品は、総じて暗い未来を描いている。独裁者が出現する「魔王」、地球最後の日「終末のフール」などなど。
ま~デビュー当初から、案山子がしゃべったりしていたので、かなり変わった世界ばかり創ってきた作家だった。なので最近の作品の方が、まだまともといえば、まともな世界なのだが・・・。
とにかくこの「ゴールデンスランバー」の世界は、警察がITを駆使して徹底した監視社会を実現した、近未来の日本を描いている。あたかもノーベル平和賞の授賞を、国家が全力で抹殺しようとしている、今の中国のようだ。

伊坂幸太郎は、小泉首相が圧倒的人気を誇ったときに「魔王」を書き、独裁者の出現を憂いた。犯罪防止の為に、監視カメラがいたるところに設置されるようになると、この「ゴールデンスランバー」を書いている。今度は、国家による監視社会の到来を憂いているようだ。
このテーマは、「1984」が書かれた時代からある、古典的なテーマだ。実際に徹底した監視社会を、実現できるだけのITツールが手にはいるようになった現代では、中国の姿を見れば分かるように、非現実的な話でなくなってしまった。
例えば、iPhonのようなスマートフォンのユーザーからは、位置情報による行動履歴、連絡先から通話記録、果ては顔写真まで、電源が入ってさえいればありとあらゆる個人情報を、簡単に収集可能なのだ。怖いのは実際に収集されてもユーザーはまったく気がつかないことだ。現状でスマートフォンのOSは、100%アメリカ製なので、テロ対策と称して、こっそりそんな機能が入っていても気がつかない可能性はある。ま~話が逸れたが、そんな事を思い起こさせるお話であった。

そういえば、最近は直木賞を受賞するよりも、「本屋大賞」を受賞した方が確実に売れるようになってしまった。先日の朝日新聞の文化コーナーに「崩れゆく壇の権威」という記事にあったのだが、その記事では、2004年に始まった「本屋大賞」と「直木賞」の受賞作品の発売部数を比較し、はるかに「本屋大賞」受賞作品の方が売れていることを、数字で示していた。
ま~さもありなん、という記事なのだが、確かに本屋大賞の受賞作は確実に面白かったし、読んできた。「博士の愛した数式」、「夜のピクニック」、「東京タワー」・・・。2009年の受賞作「告白」は、大ベストセラーになり、アッと言う間に文庫化されしまったのは、記憶に新しい。

気がついたら、今までの「本屋大賞」受賞作は、文庫になったら確実に読んできた。しかも、★★★★以上ばかりだった。しかし今回の「ゴールデンスランバー」は、★★★。我が輩としては、伊坂幸太郎作品は常に読んできたのだが、その中でベストだとは思っていないからだ。
http://smcb.jp/_ps01?post_id=1897071&oid=27605..
キャラがいつも同じでデビュー直後の新鮮味が薄れたのか、読後の後味が良くなかったのか、明確ではないのだが、傑作とは思えなかった。しかし一般的には非常に評価が高いので、ま~我輩個人の好みの問題なのだろうな・・・。