マイクロソフトが買収したディープラーニングのスタートアップ企業Maluubaの研究チームが、AIによる「分割統治法divide and conquer)」を考案した。画面に配置されたエサやモンスターの動きなどを総合的に判断して点数を競うゲーム「Ms.Pac-Man」で、ハイスコア99万9990点を叩き出したのだ。

インベーダーゲームのようなシューティングゲームなら、「強化学習」を用いることでコンピューターは既に人間よりはるかに高得点を得られるようになっている。しかしこのパックマンは、操作は非常に単純でも、モンスターから逃げながら効率的にパワーエサを取らなければならないため、AIにとって意外に攻略が難しかったのだ。

そこで研究チームは、モンスターから逃げることだけを考える役、パワーエサを取ることだけを考える役など、ゲーム中の作業を150にも分割した。そして各々の役割に対して、個別にAIエージェントを割り当て学習させたのだ。さらにそれらのエージェントを束ねる役割となる上位のAIエージェントを作成し、総合的な判断と操作の決定をさせることで、ハイスコアを実現させたのだ。これは、組織力でパフォーマンスを発揮させるプロジェクトチーム、つまり決定権を持つリーダーと多数の専門家がいる組織構造と同じだ。

この多数のAIが協議しながらプロジェクトを進めるイメージは、1985年に発表された小松左京の未完の傑作SF「虚無回廊」を思い出してしまう。この長編小説は、当時大ブームだった人工知能を超える存在として「人工実存(Artificial Existence:AE)」を設定し、そのAEに宇宙船を長期間操縦させて、謎の天体にまで到達する壮大な物語だ。宇宙船を単一のコンピューターに操縦させるのではなく、コンピューターを仮想的に複数(確か6つ)に分割して各々に得意分野を与え、さらに仮想の性別や人格を与えることで、それぞれの判断に「偏り」を持たせたのだ。
深宇宙という未経験の領域を探索するには、単一の「考え方」では正しい判断に至る確率が低いだろうとし、コンピューターでも複数の「専門家」の意見を吟味する方式にした小松左京の驚異的想像力は素晴らしかった。

それにしてもディープラーニングを学習させるには、莫大な計算機リソースが必要なので、1年前でも1つのニューラルネットに学習させるには数週間を要していた。それが今では、150ものニューラルネットを学習させながら研究ができる時代になってしまったようだ。このAIの超速進化が続けば、2045年を待たなくともシンギュラリティは早々に来るだろうな。