近年のディープラーニング研究の急進展により、次第に「汎用人工知能」の実現が、夢ではなくなってきているようだ。この汎用人工知能という言葉には、『あらゆる問題に対応できる万能な知能』というイメージを持ってしまうが、これではあまりに非現実的だ。そこで、2015年に設立された汎用人工知能の構築にむけた研究者組織「全脳アーキテクチャ・イニシアチブ(WBAI)」では、『多様な問題領域において多角的な問題解決能力を自ら獲得し、設計時の想定を超えた問題を解決できるという人工知能』と設定している。
これは、画像認識や音声認識などのような「特化型人工知能」に対する言葉として、目標設定がされているのだ。つまりデータさえあれば、そこから自ら学習することで幅広い問題解決能力が得られる知能を目指している。
この「全脳アーキテクチャ」は、エンジニアリングとしての人工知能と、サイエンスとしての神経科学の両面からアプローチを行い、人間の脳を学んで脳を超える知能を獲得しようという意欲的な研究なのだ。そのためには、①『脳の各器官を機械学習モジュールとして開発すること』と、②『それら複数の機械学習モジュールを脳型の認知アーキテクチャ上で統合すること』の2つの研究開発が必要だとしている。
① は、大脳新皮質をモデル化したアルゴリズムであるHTM(Hierarchical Temporal memory)などが有力視されている。そして②も、神経科学における知見の蓄積で、脳全体の結合様式が解明されつつあるという。このため、ここ数年で「全脳アーキテクチャ」という一昔前だったらSFの世界でしかなかったことが、現実の研究目標として掲げられてきているのだ。
この汎用人工知能の実現は、もちろん容易ではない。しかしたとえ理想とする汎用人工知能に届かなくても、そこに至るまでの開発過程で生じる様々な知見やテクノロジーは、社会に対して大きなインパクトを与えることは確かだ。NPO法人であるWBAIは、2030年を目標にこの汎用人工知能の構築を目指している。そしてその目的として、科学技術の進展と人類のグローバル問題の解決に役立つことを挙げている。如何にも基礎研究者らしく、知的好奇心が最優先の抽象的な目的でしかないが。
一方で、潜在的に汎用人工知能が内包するリスク、つまり人間の脳を本当に凌駕したら人間を滅ぼすかもしれないというリスクも考量し、開かれた研究開発コミュニティとしてWBAIは設立されているようだ。
人工知能の分野では、毎日のように新しい論文が発表されている。このペースで急速に進化していくと、SFの世界ではなく現実の世界に汎用人工知能が登場する日も遠くはないと、本気で思うようになってきた。