春は展示会のシーズンだが、2019年4月にAIExpoが例年以上に華やかに開催されていた。しかし、相変わらず中身のない展示会だ。人工知能やらAIやらの名前を、商品名に付けさえすれば、何でもありの展示会である。毎回観にいっているのだが、規模だけは順調に拡大し、今回は会場独占するほぼ独自開催の様相だった。
今回のAIExpoは、出展社数は前回より大幅に増大してるようで、1日ではとても見切れない程だった。しかし各社とも、ありきたりの技術内容ばかりで、目新しいものはほとんどなく、日本のメーカーで見るべきものは見当たらない。やっとディープラーニングの最新技術マルチモーダルのデモを見つけたので、これは凄いと思ったらベトナム企業だった。日本企業の技術レベルは、巷でよく言われるように、アメリカや中国から周回遅れなのがよく分かる。

ディープラーニングの中でも、CNNなど数年前からある画像処理系は技術がこなれてきており、大手IT企業がAPIを公開しているので、誰でも使える技術となった。今では初心者のプログラマーでも、画像認識デモ程度なら実装できるはずだ。そんなレベルのデモを、今さら展示会で紹介している企業は、技術力の低さを宣伝しているようなものだろうな。
CNN系の進化速度は相変わらずペースが落ちていないので、他のIT系技術と比べると、ビジネスに利用するには使いづらい。しかしCNNをビジネスに実装する実用的な手法が出そろってきたので、以前に比べてはるかにやりやすくなってきているはずだ。例えば、膨大な教師データが無くてもネットワークを学習させられる転移学習や、PoCのノウハウが知られてきたようなことだ。いつまでも、ディープラーニングの開発フレームワークにあるサンプルプログラムを動かして喜んでいる企業は、学生と同じレベルだろう。

ディープラーニングなどのアルゴリズムを研究している企業は、国内にほとんどいないようだ。これは、少人数で地道に研究開発したところで、GoogleなどのGAFAが次々と高性能なアルゴリズムを公開してしまうので、大半は徒労に終わってしまうから仕方がないというか情けない話。企業経営的にみたら、無駄な研究投資をするくらいなら、新規に公開されたGAFAのアルゴリズムを検証して多少改良を試みた方が、はるかにコスパがよいのだ。おかげで今では、どこもかしこも日本企業は同じライブラリを利用するだけなので、技術に差がなく性能で違いを出すことが困難になってきている。あとは応用先で、いかにデータで差をつけるかだろう。

それでも、日本語における自然言語処理だけは、唯一「日本語の壁」のおかげで、死守できると私は思っていた。しかしそれも、Googleが公開したCloud Speech-to-TextのAPIで、あっさり敗れ去ってしまった。今回のAIExpoでは、多くの日本企業が堂々とこのGoogleのAPIを利用して、自社のAIサービスの優位性を宣伝していたのだ。まったく情けない話だ。せめて日本語の処理くらい、日本企業で開発しろよと言いたくなった。数十年前から日本語の自然言語処理を地道に研究していたNTT系企業はどうしているかと思ったら、今ではGoogleの後塵を拝してる。Appleが「Siri」を始めたら、すぐにドコモが「しゃべってコンシェル」をサービスしてきたので、さすがNTTは技術力があるもんだと思っていたのだが、それも今は昔か・・・。

ホシの数ほどあるNTT系列の企業は、毎回IT系の展示会に多数出展している。今回もNTTxxでイロイロ聞いてきたのだが、愕然としてしまったことがある。なんとNTT研究所や各NTTグループ企業の研究開発成果を、他のNTTグループ企業は共有できないようなのだ。ドコモが開発している音声認識技術は一級品のはずだし、そのテキスト変換技術も優秀なレベルであるはず。それがNTTとドコモでは仲が良くないとかなんとか、わけのわからん理由で、各社が独自に開発しているとのことだった。
エンジニアからこの話を聞いていて、呆れ返ってしまった。貴重な人材や研究成果をグループ各社で共有できないような企業は、GAFAの仲間に入れるどころか、未来はないだろう。日本は自社の重大な欠陥に気がつかないような、技術を知らないレベルの低い経営者が大半なので、AI技術だけでなくIT系全般の技術が進展できないのだ。相も変わらずスタンプラリーしかできない管理職のおかげで、意思決定が異様に遅い古い企業体質にしがみついているエンジニアは、将来を見据えてさっさと見切りをつけた方がよいだろうな。