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人工知能講座5

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人工知能の冬の時代

天馬「おさらいだが、人工知能の研究には2系統あったことは話した。主流は人間の知能を記号ですべて表そうとした記号操作的人工知能。非主流派は人間の脳神経ネットワークをモデルとしたニューラルネットワークだ。質問は、人工知能研究は両方とも行き詰って人工知能冬の時代と言われてからどうなったかだったな」
伴くん「そうです」
天馬「世間から人工知能は役立たずと思われ、政府からの研究費が大幅に削減されても、研究者たちは細々と地道に研究を続けていたんだ。それまでは人工的な知能を創ろうと、気宇壮大な目標を掲げていたのだが、もっと現実的に目標を絞り込んだ。
例えばその当時に急成長していたビデオゲームだ。ビデオゲームは元々ルールベースなので、人工知能研究とは相性が良い。だからビデオゲームに登場するキャラクターたちに知的振る舞いをさせ、その成果を実社会に適用することを狙ったんだ。上手い具合にビデオゲーム開発は金銭的報酬も得られ、どんどん複雑化し高度化していくビデオゲームには高い技術力が必要だったのさ」
伴くん「でもビデオゲーム業界は、就職先にはよいかもしれませんが、人工知能の技術がそれほど使えるとも思えませんが」
天馬「そんなこともないんだよ。単純な命令で、エージェントやキャラクターたちを、複雑な行動とか知的な会話をさせるのには、人工知能の技術が役に立ったのさ」
伴くん「それでは人工知能研究は進まなかったのですか?」
天馬「他に人工知能の応用先としては、エキスパートシステムというものがあった。これは特定分野の専門家が使う問題解決のための補助ツールだ。知識と推論を組み合わせて、問題解決を手伝うためのツールなので、人工知能の応用先としてはうってつけと思われた。医者の知識と経験をエキスパートに取り込めば、エキスパートシステムに聞くだけで治療方法を教えてくれるというわけだ」
伴くん「そんなことが、本当に可能なのですか?」
天馬「多少実用的なプログラムがいくつか出てくると、大企業が飛びついてきた。石油採掘用の地質分析プログラム、農家サポート用プログラム、コンピューター会社用のシステムコンポーネント選択プログラム等々が出現し、一気にアプリケーションが広がった。ピークの1985年には、なんと10億ドルという巨額な資金が、エキスパートシステムを開発してる企業に流れ込んだ」
猿田くん「それじゃ人工知能研究者たちは、軒並み億万長者ですね。さすがアメリカだ」
天馬「いやいや、それが伴くんの懸念した通りだ。エキスパートシステムの基本構想はよかったのだが、運用面で実用的ではなかったのだよ。ルールベースなので、最初の想定を超えた状況になると当然ルールを追加していくことになる。実用性を保つにはアップデートを頻繁にする必要があるのだ。ところが命令をどんどん追加していくと、推論の正確性が失われていく。運用コストも膨れ上がり、結局利用者は短期間でシステムを見放してしまったのさ。雨後のタケノコのように、続々と出現していたエキスパートシステムのベンチャー企業は、あっという間に倒産してしまった。優秀な研究者たちは、こうなることを見越していたので、嵐が過ぎ去るのを待っていたんだよ」
伴くん「そういえばその頃の日本では、『五世代コンピューター計画』とかいうものがありましたね」

天馬「よくそんな昔のことを知っているね。日本は当時バブル時代の幕開けの頃で、アメリカの社会学者が書いた『ジャパン・アズ・ナンバーワン』の本がベストセラーとなり、日本には勢いがあった。通産省は『電子立国日本』を掲げて安定成長を演出し、半導体ではアメリカを追い落とそうとしていたんだ。そして次は、IBMにやられてばかりいるコンピューターに挑もうと、独創的コンピューターを創ろうとした。それが1982年に新世代コンピューター開発機構『ICOT』を設立した動機で、『五世代コンピューター計画』を産むことになある。日本人工知能学会もまだなく、人工知能の研究者はまだまだ少なかった時代だ。しかしアメリカでのエキスパートシステムブームを睨んで、ここで一気に人工知能に関して世界のトップランナーになろうと目論んだ」
猿田くん「でも失敗したんですね」
天馬「確かに世間一般的には、そのように言われている。10年の歳月と570億円の資金を投入して出来上がったものは、強力な並列推論マシンだったが、そのアプリケーションソフトは、ほとんどなかった。新しいハードウェアに新しいOS、新しいプログラミング言語を開発したものだから、投入された工数は適正だと思うし、計画時の目標は達成している。しかし通産省が予算獲得のために喧伝した人工知能マシンではなかった。人工知能を創り出すのに必要だったのは、強力なハードウェアではなかったのだよ」
伴くん「それでは、プロジェクトスタート時点での目標が間違いだったのですか?」
天馬「いやいや今まで話してきたように、人工知能をどうすれば実現できるかなどは、世界中の誰も、研究者でさえ見当もつかなかった。それは現在でも同じだろう。それに、あの時代に並列コンピューターを実現したことは、技術的にみると優れていたんだぞ」
愛さん「その優れた技術的成果はどうなったのですか?多額の研究費を投入したのに使われなかったのですか?」
天馬「では聞くが、CPUの世界で長年君臨しているインテルという会社は知っているだろう。なぜ数十年もの間CPUという技術革新の激しい分野で、トップシェアを維持できていたと思うかね、伴くん」
伴くん「え~と、世界最高性能のCPUを、常に出し続ける研究開発能力が高かったからでしょうか」
天馬「もちろんそれもあるが、それだけではない。というか、もう一つの理由の方が重要だと思っている」
伴くん「他にですか?大量生産による低コスト化かな」
天馬「いや、低コスト提供ならAMDの方が得意だ。最大の優位性は、下位互換性だ。つまり過去のCPUとの命令の互換性を常に維持することで、既存の膨大なソフトウェア資産を活かすことができるからだ。ハードウェアの性能を高めるだけなら、まったく新しいCPUを設計した方がはるかに良いのだ。HPやAMDや世界の様々なCPUメーカーは、インテルの86互換プロセッサより高性能のプロセッサを何度も出したのだが、ことごとく敗れ去っている。いやインテル自身も下位互換性のない高性能プロセッサを出したことがあるが、市場に受け入れてもらえなかった。
ソフトウェアのないハードウェアは、いくら高性能の演算ができても、なんの役にも立たなかったのだよ。AMDは途中から独自アーキテクチャーをあきらめ、インテル互換プロセッサに絞って生き残ってきたんだ」
伴くん「なるほど、ソフトウェアがまったくなかったから日本の第五世代コンピューターも使ってもらえなかったのですね」
天馬「その通りだ。しかしこの第五世代コンピューターのインパクトはあった。アメリカでは人工知能まで日本に追いつかれては困ると、国内の危機感を煽る材料に使われた。日本では人工知能学会が設立されて、人工知能分野で若い研究者が育ったことが成果ともいえるな」
猿田くん「あれ、それは皮肉にしか聞こえませんよ」
天馬「いやまあ、なんの話をしていたんだ。すぐに脇道ばかりそれていくのは、僕が博学多才だからしかたがないか」
愛さん・猿田くん・伴くん「・・・・・」

天馬「ところでマリリン、予定だと次はどの話だ?」
マリリン「今の第五世代コンピューターの話は予定にありません」
天馬「そうか、その前まで何の話をしていたっけ?」
愛さん「天馬先生、エキスパートシステムまで話をしていましたよ」
天馬「そうだったな。気がついていると思うが、この人工知能講座は、人工知能研究の歴史に沿って、その考え方が生まれた順に説明をする構造になっている。人工知能に関してなにも知らない人に、人工知能とはなにものかを理解してもらうためには、簡単な考えから順に理解していく方が分かり易いと考えたからだ。
ただ何度も言っているが、人工知能研究には、記号操作的人工知能と生物の脳をモデルとしたニューラルネットワークの2つの流れがある。この2つの考え方は、その発想から大きく異なるので、時系列的に混在させながら説明すると混乱してしまう。だから今からは、当時は異端扱いとなっていたニューラルネットワークではなく、正統的な記号操作的人工知能の延長線上にある機械学習から説明しよう。ニューラルネットワークの話は、その後にするつもりだ」

次は【ランチタイム】

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