パブリッククラウドと呼ばれる3大クラウド、アマゾンAWSマイクロソフトAzureグーグルAGCの競争が一段と激しくなっている。シェアで過半数を占めているAWSに対抗して、MS Azureは機能が豊富な機械学習サービスを2015年初旬から投入し、シェアを着実に上げている。機械学習のサービスなら、IBMがWatsonブランドで2014年末に開始しており、AWSもMS Azureより先行していた。しかしMS Azureの機械学習サービスは、アルゴリズムの豊富さや使い勝手で他社を圧倒しており、ユーザーに評判が良いためシェアを上げているようだ。
Webサービスの巨人グーグルは、ビジネス分野でのクラウドサービスに関して存在感はない。AI系サービスを、やっと2016年春になってから投入を始めたので、他社より1年近くも遅れている。東京リージョンも11月に開設したばかりだ。しかしそのサービスの技術レベルは高く、最初からディープラーニングの成果を使った音声認識機能「Google Assistant」や「Neural Machine Translation」のAPIなどを公開している。

これらのクラウドのサービスは、大学や企業の研究者が学会などで成果を発表すると、直ぐにしかも低価格でユーザーに提供されている。一昔前だったら考えられない程の素早さと価格だ。
クラウドサービスが無かった時代、せいぜい2010年より前までの話だが、ソフトウェアは(請負は別だが)パッケージとして販売され高機能なソフトウェアほど、当然ながら高価格だった。ソフトウェア会社は、高額な商品とバージョンアップ、そしてそのサポートで高収益を得ることができた。
高機能なソフトウェアは、企業内のローカルなサーバーで動くため、一度購入すると減価償却するまで使い続けることになり、他により高機能なソフトウェアがあっても変えることは滅多になかった。つまり進化したITの企業への伝播速度は、4~5年以上かかるのが当たり前の世界だった。特にITを理解できない経営者が多い日本企業は、ITの活用ができず、ホワイトカラーの生産性は、常に欧米企業の後塵を拝していた。

ところがクラウドサービスが始まり、各クラウド間の競争が激化してくると、このIT進化の様相が一変してくる。今までパッケージソフトとして提供されていた機能が、クラウドから従量課金サービスとして利用できるようになってきたのだ。企業は購入していないので減価償却を気にすることがなくなり、常に最新のサービスが利用可能となった。サービス提供側も、パッケージ販売ではないので、ユーザー毎に異なるバージョン管理やサポートが不要となり、管理コストを大幅に減らすことができた。クラウドで常に最新バージョンだけを提供すればよく、しかも全ユーザーに対して一気にサービスが提供可能となったのだ。
このため、企業が抱えていたサーバー群がクラウドへと移るにしたがい、ユーザー企業は常に最新のサービスを享受できるようになったのだ。このインパクトは大きいはず。IT進化の最新成果が、すぐにしかも低価格で企業は利用できるのだから。例えば技術文書を日本語に変換する翻訳サービスでは、企業は高価なパッケージソフトを購入し、オンプレミスで利用していた。しかしグーグルが提供を開始したNeural Machine Translationなどは、従来の翻訳精度とは次元の異なるレベルで、しかも低価格の従量課金サービスだ。今までの翻訳ソフトを一掃するだけでなく、専門家が翻訳する会社まで影響を与えていくだろう。

ディープラーニングなどニューラルネットをベースとしたアルゴリズムは、現時点でも日々進化が続いている。このためユーザー企業は、まだまだディープラーニングは使いづらいが、アルゴリズムが確定しつつある音声処理や画像認識などでは、さっそく導入が進んでいくはずだ。クラウドのサービスは、研究者の最新成果を最短時間でユーザーに提供できてしまう。自然言語処理においても、高機能なAIサービスが提供されたら、事務処理しかしていないホワイトカラーの業務は、一気に変革を迫られていくだろう。