2016年5月に、日経新聞は夕刊のトップで「運用 人工知能が台頭」と報じた。最近は、「人工知能」という言葉を付けた商品やサービスが急に増えてきているが、投資信託まで「AI運用」とか言い出しているようだ。
金融業界は、最近「Fintech」というIT業界からの黒船で大騒ぎになっており、「ロボアドバイザー」や「ブロックチェーン」などの言葉が飛び交っている。この「AI運用」とやらも、このフィンテック騒ぎのドサクサの中で、以前からある「アルゴリズム取引」をお化粧直ししたものと思われる。
昔から言われていることだが、そもそも本当に運用成績の良い「投資手法」を見つけたら、それを一般投資家に教えるわけがなく、まず自己売買するはず。ギャンブル必勝法とは、大昔から胴元になることと決まっており、胴元は賭場が賑うことしか考えていないのだ。

株式投資は、本来ならその会社を育てるための投資のはずだったのだが、ウォール街に巣くう「金の亡者」どもが、単なるギャンブルに貶めてしまった。金融工学とか、いかにもそれらしい数式を振りかざしても、リーマンショックがその化けの皮をはがしてしまった。金融工学だ、人工知能だと言ったところで、株価予想とは未来予想と同義語であることに、どうして一般投資家は気がつかないのだろうか。

私は自分の著作の中で、売上予想を機械学習で出来ると書いた。機械学習は、「正しいデータ」が大量にあれば、ある統計手法によって確率の高い予想は可能だが、あくまで確率が高いというだけだ。ディープラーニング(深層学習)を用いたとしても、データの中に正解がない限り、やはり完全な「正解パターン」は発見できない。どんなに素晴らしい金融工学であろうとも、株価の変動原因が「世界情勢」にあるのだから、世界の全情報を収集・分析できない限り、原理的に株価の予想は不可能なのだ。

物理学の世界では、ニュートン力学やアインシュタインの法則のように、世界の原理はシンプルな数式で表現できるという「神話」があるが、原子や素粒子は数式に従って動いているのではない。その逆で、原子や素粒子の動きに最も近い数式を、科学者が当てはめただけだ。科学には「XXの法則」がたくさんあるが、そこで用いられる数式はすべて「近似式」でしかないのだ。

過去の膨大な株価変動データから、ある秘密の方程式を発見した、というようなお話が時々出現する。しかし経済学は、科学ですらない。経済学者たちはそれらしい理論や数式を振りかざすが、所詮は統計学であり確率の問題。まして世の中の経済は、経済合理性などではなく、「人の気分」で動く。英国のEU離脱を見ていれば、これは明らかだ。もし本気で株価を予想したいのなら、社会心理学や群集心理の研究からアプローチを始めた方がまだマシだろう。

株屋は、ロボアドバイザーや人工知能の流行り言葉で、ギャンブルの素人を大勢集めて賭場を賑わし、寺銭を稼ごうと虎視眈々と狙っている。IT系の流行り言葉は何やら難しげで、大衆はその実態を知ろうともしないことを利用しているのだ。大衆である我々は、胴元の戦略に惑わされないためにも、IT系流行り言葉(バズワード)は、常に把握していなければならないのだ。