canstockphoto34401356今年になってから、医療分野でも機械学習や深層学習(ディープラーニング)を利用したサービスの発表が増えてきている。キャノンは、今年の7月に機械学習を活用した医療画像診断支援ソフトを発表した。肺のX線CT画像から、肺がん確率を症例DBから機械学習した結果で診断する機能と、脳のMRI画像から脳疾患の可能性をディープラーニングで解析するものだ。
またNECは、電子カルテの診療データをディープラーニングで解析して、病名を予測するシステムを公開した。こちらは、電子カルテのデータと病名を機械学習させて、学習モデルを作成。このモデルに診療データを入力して病名を予測させるのだが、正答率は60%程度という。
NECは、国内の電子カルテ分野では大きな存在感があるので、ディープラーニング技術を持っているならデジタルヘルスケア分野で、今後強くなっていくはず。以前からNECは画像処理分野において、トップクラスの技術があったが、意外にもNECはディープラーニングを以前から研究していたようだ。昨年から「RAPID機械学習」というサービス名称で公開しているが、元々NECの北米研究所で開発された機械学習用フレームワーク「Torch5」がベースだそうだ。

このデジタルヘルスケアは、GoogleやApple、IBMも狙う、今最も注目されている成長分野。先進国全体で高齢化が進み、医薬や医療関連市場は今後も拡大が見込まれるからだ。しかもディープラーニング等のAI系技術が最も得意とする、ビッグデータの宝庫でもある。
しかし最大の問題は、各企業が最も欲しい患者の診療データが、個人情報の中で最もプライベートな情報であり、簡単には入手できない。各医療機器メーカーは、病院と提携してでも診療データを何とか入手しようとしている。しかし個々の医療機器データを入手できても、投薬などの治療との関係性や経年変化など重要なデータは、電子カルテに集約されている。したがって、電子カルテのデータを大量に集めることができる企業が、今後の医療機器開発や診断サービスで優位に立てるはずなのだ。
もっとも、ビッグデータは持っているだけでは宝の持ち腐れ。分析技術もなければならない。NECはこの両方とも持ちうる企業なので、デジタルヘルスケア分野で今後強くなるだろうと、前述したのだ。

機械学習は、その原理が統計学にあり、開発や実験もそれほど難しくないので、今からビジネス分野で盛んに活用されていくだろう。しかしディープラーニングは、その手法自体がまだ研究段階にあるため、ビジネスでの実用化が遅れている。だがディープラーニングの中でも先行しているCNNが得意とする画像認識は、高額な医療機器で重要な機能だ。計算機リソースを大量に使うディープラーニングでも、医療機器ならコストより機能優先なので、ディープラーニングのビジネス応用先としては、医療機器が先行していくと思われる。