前回のこのコラムで「国際画像機器展2018」で見つけたCOGNEX社の話を書いた。長くなるので言及しなかったが、日本の大手ITベンダーは、相変わらずAIビジネスでは存在感がない。ま~レガシーな巨大金融システム以外は、今ではどの分野でも存在感などないが。
大手ITベンダーは、AIブームが始まってからPOCばかりやっていることは聞いているが、ビジネスになった話はとんと聞こえてこない。社内にディープラーニングを扱える技術者がほとんどいないのは、日本のメーカーやITベンダーならどこも同じだろう。2017年になり、大手ITベンダーはやっと社内でディープラーニングの勉強会をやっていたようなので、今ではコードを実装できるエンジニアなら、かなり増えてきているはずだ。米社が開発したフレームワークやライブラリ、APIも豊富だし。

当初、ディープラーニングの中でもCNNは画像領域に特化したネットワークで、ハードウェアも急速に進化したので、実用化も早いと単純に思っていた。しかし大手ITベンダーは、CNNがどんなアプリケーションに有効なのかがまるで分っていないようだ。クライアントに御用聞きをしないと何も始められない大手ITベンダーは、マーケットや現場ニーズをまるで知らない。旧態依然とクライアントのワガママな要件をお伺いし、クライアント固有の個別開発しかしてこなかったからだ。

日経コンピューターの名物コラム「木村岳史の極言暴論!」では、だいぶ昔からこのあたりの事情を舌鋒鋭く言い続けている。「IT業界を強制終了せよ、日本の全体最適に不可欠だ」を読むと理解できると思う。貴重なエンジニアを切り売りする「人月商売」しかしてこなかった大手ITベンダーは、売上だけ高額だが、リリース前から時代遅れの巨大金融システム開発が終了すると、今では青息吐息だ。日本の大手ITベンダーは、利益率は高いが技術力と販売力が必要なパッケージソフト商売をやったことがない。というか、アメリカのパッケージソフトの輸入代理店になり下がり、自らのパッケージソフトは切り捨ててしまっている。そのため現場ニーズを知る必要がなくなり、今ではディープラーニングの応用先が分からないのだろうな。

AIブームが始まった2016年頃だったか、日立はAIブームに乗じて日立独自の人工知能「H」とかいう宣伝を、大がかりにしていた。たしかこの「H」を使うと、将来は経営者が不要になるかもしれない、などと新聞記事にしていたはずだ。
日立なら人工知能の画期的アルゴリズムでも研究しているのかなと思い、調べたり展示会で話を聞いてみて驚いた。基本的な考えはただの「重回帰分析」のようなのだ。重回帰分析ならExcelにアドオンソフトを入れれば誰でも使えてしまう。そんなレベルで人工知能とか宣伝しているのには、さすがに呆れてしまった。最近、日立の機械学習エンジニアと話す機会があったのだが、さすがに社内でも「H」の話はタブーのようで、この話に触れられたくないようだった。

NECはディープラーニングが登場するまで顔認証技術で世界トップクラスだったが、CNN以降は転落してしまう。しかしカナダに研究センターがあったので、NECは国内企業としては比較的ディープラーニングへの取り組みが早く、今では顔認証にFaster R-CNNを取り入れて、再び世界トップクラスにいるようだ。しかし顔認証以外の分野では、今でもパッとしていない。NECは医療分野に強いはずだが、POCばかりで具体的な製品としては未だに聞こえていない。

富士通は、AI Zinrai(ジンライ)というサービス名称で、自社クラウドでAIプラットフォームを提供している。クラウドではまったく存在感のない富士通だが、せっかく持っているデータセンターを有効活用すべく、AI案件をここで提供しようとしているのだろう。つまり細々としたユーザー毎のAI案件を、汎用的なAPIを提供することで効率よくSI構築する考えと思われる。今のところ売上にならないPOCばかりに、貴重なAI系エンジニアを投入しているが、本格的なビジネスに繋がっているように外からは見えない。そもそもクラウド前提では、ネットワークの外部接続が嫌いな古い体質の工場には向かないのかもしれない。COGNEX社は、そのあたりも考慮して、エッジ側でも容易に処理できるようになっていたな。

それにしても日本の大手ITベンダーは、せっかく希少価値のある優秀なエンジニアを多数抱えているのに、相変わらず無駄な消耗をさせる人月商売ばかりやっている。COGNEX社や「勘定奉行」で超高収益のオービックビジネスコンサルタントの「爪の垢でも煎じて飲み」、利益率の高いパッケージソフトを開発すればよいのに。まあ御用聞きが前提の人月商売ばかりやってきたので、パッケージソフトの作り方も忘れているのだろうな。
今の旧態依然とした企業風土のままではエンジニアは永遠に浮かばれないので、腕に自信のあるエンジニアなら大手企業にしがみついていないで、さっさと元気なITベンチャーに転職した方が、将来が望めるはずですよ。