前回も書いたが、「ドライバーレスカー」すなわち自動運転カーの開発競争が世界中で激化している。メルセデス・ベンツが2015年に発表したコンセプトカー「F015ラグジュアリー・イン・モーション」は、その未来的フォルムと前部座席が回転シートして、後部座席と対面できるインテリアで評判となった。
もちろん自律型の完全自動運転なので、バックミラーやペダル類などなく、メーカーは「移動型居住空間」と称している。さらに面白いのは、この車が歩行者や他の車と「コミュニケーション」できることだ。車の前後にLEDを多用した表示装置を装着して、文字の表示ができる。さらに歩行者がいる場合には、それを検知して道路にレーザーで「横断歩道」を照射して歩行を促したりもできる。その際に歩行者が手を振ると、その意味を解釈して文字を照射し、車が直接コミュニケーションもするのだ。

この機能は、都市部では歩行者と自動車が混在した道路が普通にあるからだ。道路を歩いている人は、走行してくる車を見つけるとドライバーの顔を注視して、ドライバーが歩行者を認識しているかどうかを無意識でもまず確認する。このアイコンタクトをしないと、歩行者にとって危険だということを自覚しているからだ。逆にいうと、道路上をドライバーが居ない車が走ってきたら、歩行者は恐怖を感じるかもしれないのだ。

人と様々な車両が混在している社会において、安全で安心できる交通社会を構築するには、「人・車・道路」がバランスすることが必要だと政府も主張している。AIが運転する自律型の完全自動運転カーは、その自動化機能の割合ばかり強調されていた。しかし、その自動運転の開発過程において、都市部で安全に走行するためには、歩行者と車とのコミュニケーションも必要だと自動車メーカーは気がついたのだろう。
車専用の道路を走るだけだったら、現在の技術だけでも自動運転カーは実現できてしまう。しかし歩行者や他の車が混在している道路には、予測不可能な動きをする人間がいる。確かにそれらの人間と、何らかのコミュニケーションができないと、安全な運転などできないとなると、自律型自動運転カーの実現は一段とハードルが高くなってしまうな。