全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト2020(DCON2020)」が、8月に開催された。高専生がディープラーニングを活用した事業のアイデアを提案して、専門家がその企業評価額を競うコンテストである。実際に生徒が試作して、フィールドでその性能を確かめたうえでの提案で、非常に説得力のあるものであった。

私はEテレの「サイエンスZERO」を見て初めてDCONを知ったのだが、見る前までは学生の技術力や提案力をほとんど期待していなかった。ところが驚いたことに、ディープラーニングを実際に実装して活用する技術力は、IT系企業とたいして変わらないレベルなのだ。ベンチャーキャピタリストが、その提案に対して企業評価額を付けるのだが、最優秀賞チームには企業評価額 5億円、投資総額 1億円を付けていた。

その最優秀賞は「東京工業高等専門学校 プロコンゼミ点字研究会」で、「:::doc(てんどっく)」というシステム。印刷された文字と点字の相互自動翻訳を視覚障がい者自身で行えるもので、テクノロジーを使って情報アクセス不平等をなくす、社会的意義の高い取り組みが評価された結果だという。

提案内容は学生レベルを超えて素晴らしいものなのだが、私が驚いたのはプレゼン中にサラッと「BERTを利用して文章を要約して点字翻訳した」と説明したところだ。日本語の文章を要約するサービスは、最近やっと始まったばかりで、その精度はまだレベルが低い。しかも日本企業でBERTを使った要約を実現できたところを私は知らない。まあ私が知らないだけかもしれないが、学生がBERTで文章要約を実装できたことだけでも素晴らしいことだろう。しかもBERTのモデルを利用するには、画像認識するレベルではない莫大な計算機リソースを必要とするはずだ。そんな最新のディープラーニングモデルを、高専の学生がどうやって使いこなしたのだろうか。

自然言語処理の中でも難易度の非常に高い「文章要約」は、POCレベルで精度を求めなければ旧来技術でもある程度は可能だ。しかし実用レベルとなると格段に難しくなるために、日本で実用的なサービスは未だにない。だからこの学生たちが、実際に資金を集めてベンチャー企業を興し、現実にサービスをやろうとすると、様々な困難にぶち当たるだろう。だがこのコンテストの目的は、若者にそんな試練を与えて、日本には非常に少ないベンチャー精神のあるAI人材を育てるためだから、サービスを開始できなくてもかまわないはずだ。それでも、こんな素晴らしい提案ができる若者には、ぜひ成功してもらいたいもんだな。