シェアリングエコノミーの大波が、世界に押し寄せている。シェアリングエコノミーとは、不特定多数の人々がインターネットを介して、個人が持つ乗り物・スペース・モノ・スキル・カネなどを、共有できる場を提供するサービスのことだ。このシェアリングエコノミー企業で、2015年末までにベンチャーキャピタルから10億ドル・約1千億円以上調達した企業(ユニコーン企業)が、なんと6社もあるのだ。

最も著名なのは、世界57ヶ国でライドシェアサービスを開始しているUberで、既に1兆円もの巨額な資金を得ている。次が、中国で最大シェアのライドシェアサービス滴滴(Didi)で5千億円。個人が所有する家屋に宿泊できるサービスAirbnbが、2400億円を得て190ヶ国100万物件が登録済みとなっている。アメリカのライドシェアサービスLyftも2000億円。インド最大のライドシェアサービスOLAが1200億円。会員登録制コワーキングスペースのWeWorkが1000億円と、どこも巨額な資金を獲得しているのだ。

ちなみに、人工知能(AI)関連ベンチャーの2016年における資金調達総額は、日経新聞の報道によると50億ドル・約5千億円。AIを活用した高度なサイバーセキュリティーサービスを手掛ける米スタックパスが、1社で180億円を調達している。この金額でも巨額なのだが、前述のシェアリングエコノミー企業の調達金額と比較すると、どうしても小粒に見えてしまう。つまり、現時点でリスクマネーの出し手であるシリコンバレーの大手ベンチャーキャピタルは、AI分野よりシェアリングエコノミー分野を重視しているようにみえるのだ。

参考までに、日本のIT系ベンチャー企業であるメルカリも、2016年に84億円もの資金を調達している。メルカリの市場は、スマホ用フリーマーケットアプリであり、すでに巨大な市場を形成していたネットオークションやフリーマーケットのユーザーを、スマホへ誘導することで急成長ができた。つまりAIやシェアリングエコノミーのように、まったくの新規市場を開拓したわけではない。日本のファンドは、シリコンバレーのベンチャーキャピタルのように、新規市場を創りだす必要があるハイリスク案件には、手を出したくないのだろう。だから、日本のAIベンチャー企業は、トップクラスでも数十億円程度の資金調達が精一杯なのかもしれない。

もっともAIビジネスといっても、実際に実用化されているサービスは少なく、研究段階が大半だ。その長い研究期間を耐えて実用化に至るには、まとまった資金が必要。しかしその資金を獲得できないために、優秀な人材や開発リソースを確保できず、どうしても開発が遅れて資金ショートになる場合が多くなる。まあベンチャー企業経営とは、そのようなものだろうが、日本の場合は資金が乏しいので、結局のところベンチャー企業という名前の零細企業ばかりになりそうな気もする。

冒頭で紹介した世界におけるシェアリングエコノミーの興隆も、日本だけは蚊帳の外だ。アイデアなら比較的早い段階で日本でもあった。シェアリングエコノミー企業の代表格Uberと創業時期が同じ2009年創業の「軒先株式会社」は、シェア型パーキングサービスや個人間の自転車シェアサービスを運営している。しかしUberはすでに1兆円企業となったが、総務省発行のH28情報通信白書でも紹介されている日本の軒先株式会社は未だに零細企業だ。せっかく同じような問題意識とアイデアがあっても、日本ではベンチャー企業がなかなか育たない。経営者の資質の差と言ってしまったらお終いだが、リスクを取ろうとしない日本のファンドが、これほどまで日米というか日本と諸外国とに大きな差を生じさせてしまった大きな原因のような気がするのだが。