10/4~10/7に幕張で開催していたCEATECだが、「AIソフトも使いやすさを競う時代に突入」に書いた製品以外で気がついたことを紹介してみる。
AI系で最も技術力が目立っていたのは、Preferred Networks社だ。日本で唯一のディープラーニング・フレームワーク「Chainer」で、世界的に有名な会社だ。ディープラーニングと強化学習を用いてドローンの操縦をさせたり、Amazonのピッキングチャレンジで2位となったロボットアームのデモを行っていた。ディープラーニングは、ここ1年でかなり実用化に近づいてきているが、このPN社が日本の先頭グループにいることは間違いないだろう。
ディープラーニングなどAI系ソフトの開発は、ライブラリの豊富なPythonで開発するのが一般的だ。ChainerもPythonでプログラムを書くことが前提になっている。しかし実際に製品実装しようとすると、組込みソフトの世界ではC言語やC++を用いるのが普通で、Pythonは用いない。だからPN社が、トヨタやファナックの機器を実際にコントロールしていることは、しっかりした技術力を持っていることの証だろう。
老舗であるNTT系列の会社は、さすがAIも強い。日本語の自然言語処理では、日本ではトップクラスの技術力がある。NTTドコモの「しゃべってコンシェル」は、AppleのSiriとほぼ同時期に実用化していたので、日本語の音声認識、意味解析、発話に関して最先端の技術を持っている。もっとも、この自然言語処理は旧来からある技術の延長線上にあり、ディープラーニングなどは用いていないと思われる。しかし9月に発表していたNTTレゾナントの「教えて!goo」は、時系列ディープラーニングつまりRNNを用いていた。したがって、ディープラーニングの実用化に関してもNTTは日本ではトップクラスにいるだろう。
このCEATECでは、NTTドコモが「リアルタイム移動需要予測技術」を用いたタクシー実証実験を発表していた。これは、タクシーの運行データとNTTドコモの持つ携帯電話の電波から人口動態を推測した値、気象データ、イベントデータ、施設情報を入力データとして、ニューラルネットワークを用いて30分後のタクシー利用需要を予測するシステム。入力データが大量にあるので、リアルタイムで予測ができる点が優れている。統計処理を用いた機械学習でも実現できるはずだが、ディープラーニングを利用しているとのことだった。
富士通も「人工知能との協調対話による課題解決」という発表をしていた。これは、いわゆるチャットボットで、旅行代理店に利用者が旅行相談をする設定でのデモだった。富士通は人工知能と言っていたが、実際には従来からある自然言語処理での会話システム。あらかじめ会話のパターンを大量に持ち、言語解析してから設定してある回答パターンを発話する仕組みのようだ。特にRNNを用いて発話しているわけではないとのことだった。
トヨタも「KIROBO mini」と名付けた小さな会話ロボットを発表していた。この39,800円のロボットは、スマホとBluetoothで接続しクラウドで会話処理をしている。一般的な対話システムのようで、「自然な会話」と言っても当然ながら登録されていない単語しか認識しないし、発話も限定的。だからロボットのキャラクター設定は、あくまでも「子供」。知らない言葉がたくさんあってもユーザーがあきらめてくれることを期待しているのだ。もっともシステムがクラウドベースなので、次第にバージョンアップしていって、MSの「りんな」並にはなれるはずだ。
CEATECは本来「家電」のショーだが、今年から大幅にリニューアルして「人工知能」を前面に押し出してきた。私は1980年代に晴海で開催していた「エレクトロニクスショー」の時代から、この展示会を見学してきた。日本の家電メーカーが世界を席巻していた時代を知っているが、最近の家電メーカーの凋落ぶりは目を覆うばかりだ。だから、せっかく設定した「人工知能」というキーワードで、再び日本のメーカーも復活してもらいたい。大企業体質が染みつきスピード感のない日本の家電メーカーが、ITの超速進化に追従できるかが心配だが。