AIテクノロジーの世界

「大企業の栄枯盛衰の仕組みとは」2015年7月

canstockphoto34787068かつて日本企業は、研究開発から製造販売まで一貫して行う、垂直統合モデルで世界を席巻してきた。主に家電などのエレクトロニクス関連商品でだ。しかし21世紀になってからは、家電品は韓国企業に敗れ、急激に市場を拡大させたインターネット関連サービスは、ほぼ全部米国のベンチャー企業が牽引してきた。今の日本企業には、特にICT関連企業には、かつての栄光の面影はない。

大企業は、その図体の大きさがゆえに、業務管理やリスク管理を徹底する。規則は増えることがあっても減ることはなく、企業規模が大きくなればなるほど社員の行動は、がんじがらめに束縛される。個人で判断することは許されず、セキュリティ対策で社内コミュニケーションは寸断されてしまう。『組織の老化』と言われる現象だ。大企業病とも言われているが、これはなにも日本企業に限ってのことではなく、米国でも欧州でも同じこと。

しかし、前例の無い研究や商品企画のような、新発想が必要な知的行為は、管理されることが最も嫌われる。その対策として、10%ルールとか呼ばれるような、本来業務とは別枠で好きな研究に1割程度時間を割いてよい、という制度がある。Googleなどかつてはベンチャー企業でも今では大企業になってしまったネット企業で、盛んに行われている手法だ。

日本企業でも一部の企業が導入しているようだが、業務時間内に遊んでいるという冷たい視線に耐えられないためか、成功例はあまり聞かない。そもそも日本人は、商品を改良することや品質管理は得意でも、まったくの新発想は不得意なのだ。

まあ米国の大企業でも、たとえ新発想のアイデアや企画があったとしても、リスク管理が厳しいために、途中で商品開発を断念する場合が多いようだ。このため近年は、リスクの高い研究開発(R&A)ではなく、企業買収(M&A)が盛んに行われている。つまり何らかのアイデアを元にベンチャー企業は発足するが、実際に成功するのは百社に1社程度。そのある程度成功が見えてきたベンチャー企業を丸ごと買収することで、投資効率を上げようということだ。

このM&A作戦が功を奏して、最近の米国企業の興隆は著しい。これは人材活用の面においても有効で、優秀な学生は大企業には入らず、ベンチャー企業を自ら興して、大企業に買収されるまで業績を上げ続け、高値で売り抜けて大金を得ようとする。日本の大企業だと、一生働いても得られないような収入でも、短期間で得られる可能性があるため、どんどん優秀な人材がベンチャー企業に集まるという好循環が生まれている。

このベンチャー企業を支えているのがベンチャーキャピタルで、まだまだ海のものとも山のものつかないヒヨッコ企業に対して資金提供をする。このベンチャーキャピタルは、金融市場に溢れている莫大な資金を元手に、滅多に成功が望めないベンチャー企業に対してでも、当たれば数千倍にもなるリターンを期待して投資するのだ。つまりベンチャーキャピタルが投資リスクを負っているのだが、投資先への目利き機能と多数のベンチャー企業への投資により、リスクヘッジをしている。

こうやって育てられたベンチャー企業は、十年ほど前だったらそのまま大企業になったのだが、最近はその前に大企業に買収されることが多い。大企業としても、リスクの高いR&Dよりも、手っ取り早く商品化して資金回収可能なM&Aを好むようになってきた。

つまり米国は、リスクの高いR&Dはベンチャー企業とベンチャーキャピタルが担い、株主から投資効率を求められる大企業がその商品化をすると、役割分担しているようなものだろう。

日本の大企業は、自社技術にこだわってきた伝統と、社内に大量の研究開発要員を抱えていることもあり、米国企業のようにM&Aに突き進むことはしなかった。

乱暴にまとめると、こうした役割分担の構造と資金調達環境により、現状の米国企業の復活と躍進、日本企業の没落が始まってきたと、私見だが考えている。

かつての日本は、通産省のエレクトロニクス産業育成方針を元に、銀行団がエレクトロニクス企業に対して資金提供した。そして米国のベンチャーだったインテルを押さえ込み、メモリ分野で君臨できた。この「産業の米」と言われるIC分野で強かったため、その応用である家電分野でも世界を席巻できたのだろう。自動車産業の発展も、同様に国が徹底的に保護政策を仕掛けた結果だ。安定指向の日本だと、大企業に優秀な人材が集まり易く、改良型の製品ならコンスタントに開発もできた。この当時は、日本の方が好循環だった。

しかしその後、インテルはメモリから撤退したがCPUに特化することで世界標準となり、そのメモリは価格競争に陥り全メモリメーカーとも没落していく。その後は、前述した通りの状態だ。まあ、どんな業界でも栄枯盛衰は、必定の定めということだな。

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