機械学習と読書の世界

「ITの超速進化と大企業没落の理由」その3 2016年7月

canstockphoto36786607ということで、このテーマを連作にするつもりもなかったのに、既に第3回目になってしまったのだ。

おさらいすると、日本の大企業は個人に権限がないため決断が遅く、変化の激しい時代に追従できなかったことで、次第に没落していった。
またIT企業が自社の強力なソフトウェアを無償公開し、多数のエンジニアたちが競って利用することで、さらに改良が続きITの進化速度は一層加速していく。

で、前回の宿題なのだが、なぜIT企業・ソフトウェア会社は、せっかく莫大な投資をして開発したソフトウェアを、無償で公開するのだろうか?そして、優秀なソフトウェア・エンジニアたちは、なぜ自分の貴重なノウハウを他人に教えようとするのだろうか?

ま~この素朴な疑問に対して、正解があるわけではない。ただ、エンジニアの性分なら我が輩もエンジニアだったので理解はできる。エンジニアは、基本的に人に教えてあげたいもんだ。特に自分しか知らないようなノウハウほど、自慢したい気持ちもあるだろうが、素朴に人に教えたいのだ。これがベースにある。

前述のGitHubのような世界的なソフトウェア共有サイトでは、優秀なプログラム・ライブラリやソースコードを提供したエンジニアには、「スター」というフェイスブックの「いいね」のような称賛制度がある。このスターの数をモチベーションにして、エンジニアたち特にベンチャー系エンジニアたちは、積極的にノウハウを公開している。今では、GitHubでスターを多数持っていることが、優秀なプログラマーであることの証明になっているのだ。

しかし日本の企業、特に大企業に所属しているエンジニアたちは、その点とんでもなく不自由だ。会社の秘密保持規定に縛られ、社外での技術的発言などは無駄に制限されている。ましてソースコードを公開するなどしたら、懲罰対象となり懲戒解雇される運命にある。
このような秘密主義が遠因となり、大企業が牛耳り下請け構造の日本のソフトウェア業界は、世界の最新動向から取り残されることになる。そして日本のソフトウェア全体が陳腐化してしまい、弱体化していったのだ。

それでは欧米のソフトウェア企業は、なぜ企業の貴重な財産であるはずのソフトウェアまで公開することに至ったのだろうか。理由の一つは、前述したエンジニアたちの気質にあると思っている。もう一つの理由は、OSSやAPIとしてソフトを公開することで、ソフトウェア企業は多数のプログラマーを集められることが分かったからだ。

ソフトウェア企業は、もちろん最初は商品であるソフトウェアを販売することで利益を得ていた。マイクロソフトやオラクルなどは、今でもその収益の大半をソフトウェアのライセンス販売やサポートで得ている。しかしOSなどのような基本的なソフトに高額な使用料を払いたくなかった学生や若者たちが、コミュニティを作り共同でソフトウェアを開発してオープンソース(OSS)にすることが次第に流行りだした。しかし大企業ユーザーは、OSSだとサポートがなかったり貧弱なため、現実にはビジネス利用ができなかった。この期間がしばらく続いていた。

それが最近、情勢が急激に変わってきた。学生時代からOSSに馴染んでいるプログラマーが増えてきたことが大きな理由だろう。もう一つの理由は、機械学習や深層学習(ディープラーニング)だと思う。これらの技術は、大学を中心に研究が続けられてきたため、ディープラーニング用の開発ツール(フレームワーク)などは最初から教育用OSSとして公開されていた。大学に資金援助して共同研究していたIT企業は、ディープラーニングが実用になり始めたため、サービスや商品に組み込んで差別化を図ろうとした。ところが、このような最先端のソフトウェア技術を理解し、さらにアルゴリズムを改良できるような研究者は、世界的にもまだまだ非常に少なかったのだ。

「一人の天才プログラマーは、百人の凡人プログラマーより価値が高い」とまで言わる世界だ。Googleは、その膨大な資金を背景に優秀な若い研究者たちを一気に囲い込み、一躍ディープラーニングのトップ企業となることができた。これが1年前の話。しかし大学のOSSを利用したプログラマーたちも非常に数が多く、続々と新サービスを立ち上げてくる。OSSの開発用フレームワークも日増しに改良が進み、世界のプログラマーたちは、当然のようにOSSでディープラーニング用のアプリケーションソフトを開発していた。有料のフレームワークでは、プログラマーが足りなくなるため、しかたなくGoogle、Facebook、マクロソフトなどの巨大企業まで雪崩を打って、自社のディープラーニング用フレームワークのOSS化を始めていく。これは2015年後半から2016年にかけて、わずか半年の話だ。

おそらく先進的なソフトウェア企業は、自社ソフトをOSSやAPIの形式で公開することで、「エコシステム」を構築しようと目論んでいるのだ。つまり、フレームワークを公開することで、まずエンジニアたちを自社陣営に多数確保する。GitHubではプログラマーの実力が判るので、優秀なプログラマーたちを高給を払ってでも雇い、貴重な人材をできるだけ多く確保できることを期待しているのだ。
プログラマーたちはOSSを積極的に利用してノウハウを得、GitHubで公開してスターを獲得、人気企業に高給で雇われたり、ベンチャーキャピタルからのオファーを待っているのだ。
こうして需要と供給の好循環ができあがると、勝ち組のIT企業では機械学習の応用事例やディープラーニングの改良が加速度を上げながら進展するので、数か月単位ITは進化するのだ。

今では、日本のベンチャー企業が中途採用する際に、職務経歴不要、面接もしない代わりに、GitHubアカウントだけ教えてくれればよい、という実例まである。しかし安全第一の日本の大企業では検討すらできないような方法なので、IT世界からはアッというまに置いてきぼりになっているのである。

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