公立はこだて未来大学のプロジェクトチーム「きまぐれ人工知能プロジェクト」は、人工知能(AI)にショートショートを創作させることを目指すプロジェクト。2012年にスタートしたのだが、星新一のショートショート全編を分析して研究を重ね、2016年3月にその成果を発表した。それが「コンピューターが小説を書く日」と「私の仕事は」の2編だ。
この2編の小説は、2015年にショートショートの文学賞・第3回日経『星新一賞』に応募した作品。この賞は「人間以外(人工知能等)の応募作品も受け付けます」とうたっているのが大きな特徴で、今回AIの応募が11編あり、メディアに取り上げられて大きな話題となった。
このショートショート作品は、下記のURLで読めるのだが、意外にも文章がまともで、とてもマシンが出力したものとは思えなかった。
http://www.fun.ac.jp/~kimagure_ai/results/index.html
どうせ人間が添削したのだろう、と思っていたら、なんと人間は文章に一切手を加えていないのだそうだ。これには驚いた。自然言語処理を多少なりとも知っている人なら、これは驚くべき成果であることが分かるはず。
では、この「きまぐれPJ」が実際にどのように小説を書いたかというと、文章生成部分だけ自動化するアプローチを採っている。小説全体の構成や属性は、やはり人間が設定する必要があるようだが、それでも五千字の小説を生成するのに数万行のプログラムを作成したそうだ。それにしても、意味が通るまとまった文章を、自動生成しただけでも素晴らしい成果だと思う。
この「きまぐれPJ」以外では、東大や筑波大などの人工知能研究者で構成された「人狼知能プロジェクト」が、『星新一賞』に2作品応募している。この「人狼PJ」は、「きまぐれPJ」とは真逆のアプローチで、AIが小説のストーリーを自動生成し、それを基にして人間が小説を書いている。
「人狼」とは、プレーヤーである村人同士が互いに交渉しながら、村人に化けたスパイ(人狼)を探し出す知的パーティーゲームだ。「人狼PJ」では、AIエージェント10人でゲームを1万回自動実行させ、ログを取得し続けた。小説の基となる名勝負を作りだすのが狙い。そして、その大量のログの中から人間が最も面白かったシナリオを選んで、小説として仕上げたのだ。
これらの小説の出来は、コンテストの作品講評担当のSF作家によると、「思ったよりちゃんとした日本語で、普通に小説風になっている。しかし現状では100点満点で60点程度。このままでは入賞は厳しい」とのことだった。それでも、各人工知能PJとも小説の創作を始めたばかりなので、次第に実力は上がっていくはずだ。
それに「人工知能」とか言っても、現状では日本語の生成に数万行のプログラムを書いているので、古典的な『原則+例外処理』のようなルールベースでのアプローチと思われる。シナリオ作成も大量のシミュレーションからの抽出なので、いわゆる力技(ちからわざ)だろう。もっともこれは、僕の勝手な想像にすぎないのだが。
それより、企業の中で日常的に行われている業務の大半が何らかの「文書作成業務」なので、このPJで得られた「文章自動作成機能」が実用化された場合の社会的インパクトは、計り知れないだろう。事務系ホワイトカラーの生産性が格段に向上するので、事務系の雇用が縮小していくと容易に想像できる。まあ5~6年以上先の話だろうが・・・