機械学習と読書の世界

「AIの未来とは」2017年12月

現在、人工知能とかAIと呼ばれている研究分野の中心には、ディープラーニングがある。このディープラーニングの登場で、現在のAIブームが起きたのは確かだ。しかしAI研究において、ディープラーニングはひとつの技術でしかない。AIすなわち「人工的な知能」とは、人間の持つ知能を人工的に創りあげようという試みだ。チューリングやミンスキーも夢見てきた、人工的な知能の実現は、今でも精力的に研究が行われている。それどころか、ディープラーニングの大成功のおかげで、アメリカ、ヨーロッパ、中国、日本においても、政府が主導して莫大な研究費を投入し様々な研究プロジェクトが進められている。

アメリカ国防高等研究計画局のMICrONSは、ニューラルネットワークはまだ脳に触発されたテクノロジーでしかなく、脳を実際に再現したものではないとし、現在のAIアルゴリズムと脳の実際の仕組みや作用との差を埋めていくことを目指している。ヨーロッパのヒューマンブレインプロジェクトは、10億ドルを投入して10年間で人脳を完全にコンピューターでシミュレートすることを目標に掲げている。

さらに奇抜な脳科学プロジェクトもある。ロシアの大富豪の非営利プロジェクトでは、個人の人格をさらに高度で非生物的な受け皿に移し替えることを可能にし、不老不死も視野に入れた延命を実現するテクノロジーの開発を目標としているのだ。このような人間の意識をコンピューターにアップロードする研究や、マインドクローンの研究は、アメリカでも巨額な資金を集め既に研究が進められている。

日本では、産総研が「次世代人工知能・ロボット中核技術開発」の研究開発拠点となり、AI技術の産業界への応用を図っている。理化学研究所も、多くのAI研究プロジェクトを走らせている。しかし日本のプロジェクトは概して小粒で、AIの応用が主眼だ。日本ではかつてバブルが華やかりしころ、第五世代コンピューター開発計画という世界でも野心的なAIプロジェクトがあった。このプロジェクトの最終評価は「失敗」という結論だったが、そのチャレンジ精神は評価すべきだろう。

それでも近年のディープラーニング研究の急進展により、日本でも次第に汎用人工知能AGI)の実現が、夢ではなくなってきているようだ。この汎用人工知能という言葉は、『あらゆる問題に対応できる万能な知能』という意味だ。2015年に日本で設立された汎用人工知能の構築にむけた研究者組織「全脳アーキテクチャ・イニシアチブ(WBAI)」では、『多様な問題領域において多角的な問題解決能力を自ら獲得し、設計時の想定を超えた問題を解決できるという人工知能』と設定されている。

これは、画像認識や音声認識などのような「特化型人工知能」に対する言葉として、目標が設定されているのだ。つまりデータさえあれば、そこから自ら学習することで幅広い問題解決能力が得られる知能を目指しているのだ。
2017年10月AlphaGoZeroは、囲碁のルールだけ教えられた後たった3日間自己対戦をしただけで、イ・セドル九段を破った初代AlphaGoに100戦全勝した。つまり過去の棋譜を一切学ばずに、囲碁の長い歴史で生まれた定石手順を自ら発見し、更にオリジナルの定石も生み出したのだ。さらに11月末の論文によると、チェス・囲碁・将棋の3つのボードゲームのいずれにも、自己学習によって人間を超えることができたという。1つのプログラムが3つの異なる難解なゲームを高いレベルで学習できるという、衝撃的な事実を前にすると、汎用人工知能も次第に現実味を帯びてくる。

この「全脳アーキテクチャー」は、エンジニアリングとしての人工知能と、サイエンスとしての神経科学の両面からアプローチを行い、人間の脳を学んで脳を超える知能を獲得しようという意欲的な研究だ。そのためには、①『脳の各器官を機械学習モジュールとして開発すること』と、②『それら複数の機械学習モジュールを脳型の認知アーキテクチャー上で統合すること』の2つの研究開発が必要だとしている。
① は、大脳新皮質をモデル化したアルゴリズムであるHTMHierarchical Temporal memory)などが有力視されている。そして②も、神経科学における知見の蓄積で、脳全体の結合様式が解明されつつあるという。このため、ここ数年で「全脳アーキテクチャー」という一昔前だったらSFの世界でしかなかったことが、日本でも現実の研究目標として掲げられてきているのだ。

この汎用人工知能の実現は、もちろん容易ではない。しかしたとえ理想とする汎用人工知能に届かなくても、そこに至るまでの開発過程で生じる様々な知見やテクノロジーは、社会に対して大きなインパクトを与えることは確かだ。NPO法人であるWBAIは、2030年を目標にこの汎用人工知能の構築を目指しているという。そしてその目的として、科学技術の進展と人類のグローバル問題の解決に役立つことを挙げている。如何にも基礎研究者らしく、知的好奇心が最優先の抽象的な目的でしかないが。

AIの未来は、予想するものではない。人類がAIとはどのようなものか、イメージしたものがAIとなる。世界の研究者たちが期待しているAIが、夢見たAIが未来のAIとなるはず。たとえその先に、どんな未来が待ち構えていようともだ。未来は予想するものではなく発明するものだと言ったのは、アラン・ケイだけではないのだから。

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