2015年4月に、衝撃的な報道があった。心と体の性が一致しない性同一性障害など性的マイノリティに該当する人が、日本で7.6%、つまり13人に1人にもなることが判明したのだ。これは、電通総研が行った7万人対象のアンケート調査の結果だ。
2012年の同様の調査では5.2%だったので、自分がLGBTだと答える人が3年で1.5倍になったことになる。しかし、性的マイノリティの当事者であることを、誰にも明らかにしていないと答えた人は、その中の56.8%もいるのだ。
2015年6月末には、米連邦最高裁が、同性婚は合衆国憲法の下の権利であり、州は同性婚を認めなくてはならないとの判断を下した。これにより全米で同性婚が合法となったのだ。同様に、欧州を中心に世界20ヶ国が同性婚を認めている。国連も、同性婚をしている事務局職員に対して、異性婚の場合とほぼ同じ待遇を保障すると発表しており、同性婚は世界的な流れになっているようだ。
なお『LGBT』とは、レズビアン(L、同性を好きになる女性)、ゲイ(G、同性を好きになる男性)、バイセクシャル(B、性別にかかわらず同性も異性も好きになる人)、トランスジェンダー(T、性同一性障害者を含む、出生時の性別と異なる性で生きることを望む人)の頭文字を並べた言葉で、性的マイノリティのことを指している。
それにしても、最近の「性的マイノリティ」の急激な出現は、どうして生じたのだろうか。もちろん昔から、このような性的マイノリティたちは、存在していた。以前にも書いたが、日本という国は日本書紀の時代から「男色」という文化があった。室町時代の足利義満は少年を愛していたし、戦国武将の織田信長が森蘭丸を寵愛していたのは有名な話。江戸時代になると、武家の作法と融合して「衆道」と呼ばれていたようだ。しかしあまりに風紀を乱すということで、その後かなり規制されている。
とにかく、つい最近まで「性的マイノリティ」は、あくまで「マイノリティ」だった。ところが、人口の8%近くまで存在するとなると、それなりの勢力だ。これは、従来『強固な文化的・宗教的圧力』によって、潜在的に押さえつけられてきた欲望なり本能が、次第に表に染み出してきた結果と思われる。つまり、現代社会が多様性を認めるようになり、さらに法の下の平等の保障をしてきたことにより、旧来の倫理的圧力から解放されてきたのだろう。
では、なぜ人類の歴史上初めてと言ってよいくらい、婚姻に対する価値観が変容してきたのだろうか。さらに興味深い国の統計がある。「生涯未婚率」というのは、50歳までに一度も結婚したことがない人の割合を示すのだが、 男性20.1%、女性10.6%と過去最高を記録したのだ。これは2010年時点での調査結果なので、今ではさらに上昇しているはずだ。この生涯未婚率の上昇する原因は、色々と説明されているが、日本の人口減少の要因であることは確かだ。
以前書いたのだが、日本文化の変容として、「草食男子」の増加と結婚願望の衰退、「負け犬」と自虐的表現をする独身女性の増加、要するに独身割合の激増という現象が日本で起きているのだ。この結果として、生涯未婚率の上昇があるはずだ。
これら社会現象の先に在るのは、明らかに人口減少だ。統計によると、世界の人口は、現在72億人。ところが、人口増加率はピークの年2%から漸減しており、現在は年1.2%に減少。国連の予想だと、このまま推移した場合21世紀後半には100億人をピークに、世界的人口減少になりそうなのである。「人口爆発」などという言葉が以前流行ったので、イメージ的には世界的に人口が激増しているのだと思っていたのだが、現状ではすでに反転しているようなのだ。
まあ、長々と様々な数字を使って書いてきたのだが、結論として「同性婚」、「LGBT」、「草食男子」などの社会的現象は、実は『人口爆発に対する人類の無意識の抑制反応』なのではないだろうか。
社会学者・見田宗介は、『人類という生物は、近代になって爆発的に増殖したが、環境の限界によってスローダウンしていく。やがて環境にうまく適応できれば安定した平衡状態に達するが、環境資源を食い尽くすと滅亡する。したがって成長をやめれば、今よりずっと幸福な社会が訪れる』と発言している。
定性的な言い方なので、定量的に証明ができるわけではない。しかし、少なくとも戦争することによって、強制的に人口を減らすような馬鹿なことをしなくとも、人類は本能的に人口を抑制して、環境適応しようとしているのだと、信じたいもんですな。