AIテクノロジーの世界

「天才アラン・チューリングの栄光と悲劇」2017年9月

1954年6月、アラン・チューリングは、アパートの自室で毒リンゴを持ち死んでいるのを発見された。同性愛の罪で有罪となった後、41歳のことだった。

チューリングは1912年に生まれた。幼いころから科学と数学の才能を発揮していたチューリングの愛読書に、有名な一節がある。「もちろん体は機械みたいなものだ。ものすごく複雑な機械で、人間の手で作られたどんな機械よりも、ずっとずっと複雑だ。でもやっぱり機械なんだ」

チューリングはケンブリッジ大学で学び、フェローに選ばれる。1936年に「計算可能な数について」という有名な論文を発表し、「万能チューリング・マシン」という重要な概念を打ち出した。
これは、たった1つの機能のために使われる機械を多数作るのではなく、機械が1本のテープから順番に命令を読みだしていけば、様々なタスクを実行できる。つまり、他のあらゆる機械のモデルとなる万能マシンを作ることができるとしたのだ。多種多様な作業を行うために、エンジニアは多種多様な機械を無限に作る必要はなく、万能マシンをプログラムすればよいのだと。現在のコンピューターの、基本的なアーキテクチャーを確定する理論だった。

第二次世界大戦が始まると、チューリングはドイツ軍のエニグマ式暗号機を解読するためのチームメンバーとして、ブレッチリー・パークで働くようになる。当時、解読不可能と言われたこの暗号は、タイプライター型の機械にその日の設定をして作成し、受信側の機械を同じ設定にすれば、その暗号文の元の文が出てくるという仕組みだった。この設定は天文学的な数の組み合わせがあり、その組み合わせをしらみつぶしに試すには、人手で計算すると、何万年もかかってしまう。
チューリングを筆頭に、多くの暗号解読者が解読作業を試みたが、失敗の連続だった。しかし1941年、チューリングが電気機械式の暗号解読装置を生み出し、エニグマ暗号は解読できるようになる。解読装置は200台以上作られ、ドイツ海軍のUボートの位置などを正確に把握することが出来るようになった。この成果によりノルマンディー上陸作戦は成功し、終戦を大幅に早めることができたのだ。

イギリス政府は、終戦後もエニグマ式暗号機が解読できたことを極秘扱いにする。第2次世界大戦中のチューリングたちの記録を抹消し、ブレッチリー・パークでの彼や彼の同僚の活動についてのあらゆる痕跡は消された。イギリス政府は、ドイツから没収した数千台のエニグマ式暗号機を、旧植民地などに普及させる。そして絶対に破られない暗号機と偽って使用させ、密かにその通信を傍受し各国の内情を把握していた。
イギリス首相チャーチルは、彼らを「金の卵を産んでも決して鳴かないガチョウたち」と称した。関係者たちはみな、その秘密を守り、1974年に一般公開されるまで、イギリス国民は誰もチューリングの偉業を知ることはなかった。

終戦後、チューリングは暗号解読を続けることはしなかった。戦前から考えていた、人間の脳の思考モデルを機械で実現するElectronic Brainと呼ばれるマシンの開発を目指したのだ。そして1950年に「計算する機械と知性」という論文で、著名な「チューリング・テスト」を発表。この論文は次のように始まる。「私は『機械は思考できるか』という問題を検討することを提案する。そのためには、まず『機械』と『思考』という言葉の定義から始めなくてはならない」

1952年、チューリングは警察に逮捕される。罪状は同性愛の罪だった。当時の警察は、チューリングがイギリスを救った第二次世界大戦の英雄だったことを知らなかったのだ。チューリングは有罪となり、同性愛を矯正するためとして、女性ホルモン注射の定期的投与を受け入れる。
チューリングは、「胸が膨らみ自分が違う人間になっていく」と手紙で訴えていたが、やがて自宅のベッド死んでいるのを、家政婦によって発見される。ベッドの脇には、かじりかけのリンゴがあり、死因は青酸化合物による自殺と断定された。人工的に人間の脳を創るというチューリングの夢は、ここで途絶えたのだった。

2013年、エリザベス女王はチューリングに対して正式に恩赦を与え、死後60年経ってから名誉を回復させる。なお、Apple社のリンゴのマークは、チューリングのかじったリンゴだという噂がある。真実は定かではない・・・。

■参考文献
・Luke Dormehl “THINKING MACHINES”
・Wikipedia/Alan Turing
・2014年映画 “Imitationgame”

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