近年の日本の大企業、特に家電企業の没落は目を覆うばかりだ。シャープ、ソニー、東芝、サンヨーなどなど。かつては世界を制覇していた日本の家電業界が、今では韓国や台湾、中国などのアジア勢に完敗し、社員の首を切るのに忙しい有様だ。
完敗した原因は、もちろん日本人経営者の質にあるのだが、原因はそれだけではない。没落企業には共通した社風というか、制度上の欠陥があると我が輩は思っている。それは「稟議制度」つまり「スタンプラリー」だ。これは日本の大企業なら、ほぼすべての会社で取り入れている制度だろう。つまり、何かを決済する際には、決裁者が決済するまでに複数の役職者の事前承認が必要な仕組みのことだ。
サラリーマンなら毎日のように関わっている業務なので、特に疑問なんぞ持っていないのかもしれない。この制度は『たった一人の社員の判断ではリスクが大きいので、必ず複数の社員で判断すべし』という理由の元に運用しているはずだ。この考え方自体は合理性が高いので、過去何十年間も日本企業では連綿と受け継がれてきたルールだ。
しかし、どんな素晴らしい制度やルールでも、長期間運用していると必ず制度疲労つまり「老化」してくる。これは、最初はシンプルなルールなのが、長期間運用してくるにつれて様々な事件や事故などにより、細々とした付帯ルールや例外が出来てしまうことだ。どんな事象が生じても対応可能なように、膨大な付帯事項が出来上がり、ルールに社員ががんじがらめになっていく。大企業の社員なら、うなずいてくれることだろう。
こうして長い期間をかけ、社員が覚えきれないような細々としたルールが積み上がり、大企業は「安全第一」で経営されているのだ。したがってルール最優先の会社の一般社員に、判断する権限なんぞ無いに等しく、ありとあらゆる場面で大勢の役職者の判断が入ってくる。そしてこの膨大な数の「スタンプラリー」が決済遅延の原因となり、大企業の動きの鈍さにつながり、次第に没落していったのだ。
我が輩も大企業との付き合いが長いので、スタンプラリーのバカバカしさを実感していた。社員一人ひとりは優秀なのに、その能力の大半をこのような社内調整に費やしているのだから、これでは外国のIT企業に勝てるわけがないと感じていた。日本のホワイトカラーの生産性は、経産省の資料にもあるように世界的にみても低いのだが、この原因はこのバカげた社内調整時間にあると我が輩は思っている。この対策は単純なことで、「権限移譲」すればよいだけだ。
一般社員の決裁権限を大きくするだけで決済期間は短縮され、権限を持った社員は判断に責任を持つようになり、失敗もするだろうが経験を積むことで自信にもなる。
進化の最も激しいIT業界の中にいる家電企業で、判断の遅さは致命的。だから、こんな簡単な「権限移譲」も実行できない「リスク対策優先企業」から、没落していったのだ。日本の大企業は、どこも似たり寄ったりの「スタンプラリー会社」だろう。ITの超速進化に最も影響を受けたのが家電業界だったが、他の業界もIT進化の影響を受けないはずもないのだ。「スタンプラリー」の歴史では日本最古の銀行業界では、今「フィンテック(Fintech)」というIT企業が仕掛けた黒船のために、大揺れに揺れている状態なのだ。
では、次に本論の『なぜIT業界だけ超速進化しているのか』を説明しよう、と思ったのだが、前置きが長すぎたので次回に続きを・・・。